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魔汁キンミャー焼酎を異世界で  作者: 水野しん
第四章 モンスターで酒が飲めるぞ
33/230

33話

昨日の更新分は誤字脱字を修正すると共に加筆修正していますので、細かなニュアンスが当初と違います。

お手数ですが読み返して頂けると幸いです。

「アイリスはトダ村の米農家さんの娘さんで、今後は米で酒を造ってもらう予定なんだよ」


 アイリスが隣でペコリとお辞儀をする。

 しかしその手は僕の服の袖を握って、少しだけ怯えている。


「フクはご主人様とは同棲していた仲なのニャ」

 ふんす!


「えーとな、この子はうちの飼い猫だったんだよ」


「えっ! ケンジさんは小さな猫人族の女の子を飼っていたんですか!?不潔です!」


「ちっ違っ、違うし! 詳しくは後で説明するから落ち着いて、ねっ?」

 飼い猫が異世界から転生して、ここアンバーで再会したってのは、どうやって説明したら理解してくれるのかなぁ。


「私はエルフ族のナターシャだ。未だ修行中の料理人だが、今はケンジ殿の弟子だ。料理では……負けんぞ……たゆんたゆん」

 二人きりの時に教えられたのだが、彼女の父親は普通のエルフで母親がダークエルフなんだそうだ。なので胸が、その、大き目なのだと……。


「よろしく、です……」

 ナターシャが胸強調するのを凝視しながら、アイリスの応える声は小さくなっていく。アイリスだってもう少し成長すれば大きくなると思うのだけど、それを口にしちゃう程デリカシーにかける僕ではありません。


「ははは、そろそろ仕込みの時間じゃないかな? ね?皆でやりましょうか、ははは……そんな怖い顔しないで、ね? 皆、可愛い顔が台無しですよ」


 肩車してきたフクを下ろしながら頭をなでてあげて、物欲しそうな目で見ているナターシャもなでてあげた。あー、アイリスもね。


「フクはお姉さんだから仲良くできるニャ」


「わ、私だってお姉さんなのですから、串打ちのやり方を教えますよ」


 確かに二人共、年齢的にアイリスよりもかなりのお姉さんだからな。


「じゃ、アイリスには手伝ってもらった分は時給計算しないとね」


「はい、ケンジさんのお手伝いになるのでしたら喜んで」


 壁に掛けてあるエプロンを渡すと、彼女はナターシャについていく。


「フク、ちょっと来て」


「何か用かニャ」


「左手を出してみて」


「何を企んでるのニャ」

 腕を後ろに引っ込めちゃうフク。

 軽くハグして、指輪を見せる。


「いつもありがとうな。フクがいてくれて毎日が楽しいよ」

 左手薬指に指輪をはめる。


「ニャニャッ、指輪をくれるのニャ?」

 尻尾がピンと立っている。

「うれしいニャ!うれしいニャ!」

 ぴょんぴょん跳ねるフクが可愛らしい。


「色々あるけど、皆と仲良くね」


「分かりましたニャ。任せておくニャ!」


 ご機嫌になったフクと一緒に店先を掃除して、鎮座するワイバーン様達にご飯をあげた。大きなワイバーンがご飯をあげたフクにじゃれついているのを見ながら、僕だけは店内へ移動する。


 店内では仕込みも大分終わっていた。


「アイリス、これは手伝ってもらった分の給料だよ」

 計算して封筒に入れたお金を渡す。


「え、いいんですか?」


「働いたらその分はもらっておきなさい、ね」


「はい、ありがとうございます」


 そこへタイミングよく、祭りを堪能したであろうカレンさんとダイゴロウさんがやって来た。


「祭りはいかがでしたか?」


「凄く楽しかったわ。主人と二人きりでデートなんて久しぶりだったし」

 ダイゴロウに寄り添うカレンさん。


「お前っ、人前でくっつくなよ。恥ずかしいだろうが!」

「あら、そんな事ないでしょ」

「もう!お母さん達ってば!」


「ははは……」


 アイリス達にはマイヤーズさんの店先でくつろいでもらった。


 今度はナターシャを連れ出す番だ。

 店の奥に腕をとって強引に連れ込んでみた。顔を赤らめながら驚いた表情をしている。口開けまでに残された時間は少ないので早速行動に移す。


「ケ、ケンジ殿?その、優しくして下さいね……」

 強引に連れ込んだのが変な方向に勘違いさせたか。押しに弱いのねナターシャ。ごめん、そういった事ではないのです。


「左手を出して」


「左手ですか?……はい」


 おずおずと出された左手を取り、その薬指にシルバーに光る指輪をはめる。


「いつもありがとう。ナターシャの料理の腕には助かってるよ」


「え?あ?指輪!?え、これって、その……つまり……えっ?」

 ナターシャが混乱しながら抱き付いてきた。

 背中をポンポンと叩いて落ち着かせる。赤ちゃんみたいだけどこれが確実なんだよね。


「そろそろ落ち着いたかな?」

 耳元で言うと、ナターシャは名残惜しそうに身体を離してくれた。


「この店は店長も店員も女性でしょ。皆、僕に懐いてくれてありがたいけど、それが原因で喧嘩をされると悲しくなるんだよね。だから、ナターシャも皆と仲良くして欲しいんだ。この指輪はそんなお願いも込めてのプレゼント」


 ナターシャはコクリと頭を下げた。



 妙に機嫌がよくなった女性陣に心なしかホッとしている頃、助っ人のケイティとリリィが出勤してきた。

 店内の雰囲気にケイティは首を傾げていたが、リリィからはおもむろに左手を広げて見せられた。


「指輪が似合いそうな手だと思いませんか」


「り、リリィ、どうしたの?」


「ま、私達はあと少ししたら契約終了ですもんね」

 いじけてみせるリリィ。こんな可愛らしい人だったっけ?


「ちょ、ちょ、ちょっとこっちへ来て下さい」

 裏口から外へ連れ出し、ささっと左手薬指に指輪をはめる。


「リリィさん、貴女が来てくれて感謝しているんです。それがあと少しの期間だとしても、こうして形として残させて下さい」


「ふふ、リング……左手薬指……ふふっ……」


 指輪を眺めて悦に入っちゃったので放置気味に、

「それじゃ、もう少しで口開けですから、よろしくお願いしますね……」

 一応、声をかけておく。


 裏口から戻るとケイティが待ち受けていて、「はい」と、手を出して来た。


「私もしてた方がいいと思うの」


 丁度周りから死角になっている場所だし、と、指輪をはめる。


「ありがとう。これで誰が見ても平等だし、私以外は笑顔で、こっちとしては問題なく仕事が出来るようになるわ」

 ケイティはニコッと笑ってハグしていった。そうか、彼女の場合はセクハラ避けか。



 暖簾を掲げ、ワイバーン祭りで盛り上がりも最高潮の中、今日も立ち飲みチコリは口開けを迎える。


 その時、ポケットの中が震えた。

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