31話
「ラ、ランクSですって!?」
受付のお姉さんが慌てた様子ですっ飛んできた。
「ランクSってそんなに凄いんですか」
「ケンジさん! ランクS冒険者と言えば王都か辺境の危険地域位にしかいないんですよ!普通は、こんな片田舎のギルドで呑気にご飯なんか食べていませんっ!」
バンッとテーブルを両手で叩く。
「ケアスさんて凄いんですね」
見た目二十代後半といったところか。
「ケアスっですって!まさか……ドラゴンセイバーのケアス……さんですか?」
受付のお姉さん、ぷるぷる震えちゃってる。
「そうだよ。ドラゴンセイバーと呼ばれたりもする。あれからドラゴンになつかれちゃって。今日も眷属のワイバーンの子達を連れてきているんだ」
「んんん? ドラゴンセイバーって何です?」
バスターなら知ってるけど。
「ドラゴンセイバーっていうのは困っているドラゴンを助けちゃった人って事です」
受付のお姉さんが説明しながらふんすしちゃってますが、困っているドラゴンて何なんだ。何をどう困るんだ。
「分かったような分からないような……とりあえずドラゴンセイバーの事は後にして、えーと、その連れて来ているワイバーン達はどこにいるんでしょう」
分かりきった事だとは思うが聞いておこう。
「ああ、ワイバーンの子達は三頭いるんだけど、今は近くの山にいてもらってる。流石に街には入れられないからね」
「あれ?その話って、さっき聞いたケンジさんの依頼の……ワイバーン三頭……でしょうか?」
「ん? 何か問題があったのか」
「山にワイバーンが出るようになったので、猟師達が狩りに出られなくて困っているんですよ。今日はそれの討伐依頼をしに来たんですけど、どうやら貴方の連れのようですし、人を襲わないのなら問題もありません。但し、罠にかかった獲物は食べないように言い聞かせてもらえると助かります」
僕がそう言うと、ランクS冒険者、ドラゴンセイバーのケアスは口を開いた。
「何だか迷惑をかけちゃったんだね。申し訳なかった。あのワイバーン達は人馴れしてるし、攻撃はしないから猟師の人達に教えておいて欲しいな。罠の件はすぐに対処するし」
「え、他の人にも慣れてるの?」
エミリーが驚いている。
普通、レベルの高いモンスターは、テイマー以外に懐く事がないみたいらしかった。
「おい! 今すぐに戦える奴はいるかっ!」
ギルドのドアが勢いよく開いたかと思うと、男が飛び込んで来た。
「ワイバーンだ!ワイバーン! 三頭もこっちに向かってるんだ!」
死にそうな顔をして言うのが何だかおかしい。
「まぁ、大丈夫だろ」
「は? 何言ってるんだ!死にてぇのか!」
ギャーギャー騒ぐ男を無視して外に出てみる。
遠くからワイバーンが三頭飛んでくるのが見える。真ん中の一頭が脚で何かを捕まえていた。それが近づくにつれ、人間であることが分かる。ガタイのいい男だ。
「ゴーシュ!」
エミリーが叫ぶとゴーシュは手を振ってきた。
「男が捕らわれてるぞ!」
三頭が舞い降りて来た。ゴーシュはもちろん傷一つない。
「師匠、こいつらいい奴らですよ。山から街まで運んでくれたし」
ゴーシュを降ろすと、ワイバーンはケアスに寄り添って来た。
「懐き過ぎだろ」
飛び込んできた男を見るとまた驚いている。
「これは一体どういう事なんですか!」
「驚かしてすまない。このワイバーン達は私の連れなんだ。人は襲わない」
「この方はランクS冒険者のドラゴンセイバーのケアスさんです!」
物珍しさから人が集まって来てざわめきが広がり、人垣ができていた。
「ワイバーン問題は解決しちゃったねぇ。もう帰ろっかな。エミリーさん達はどうするの?」
「安全は確認できたから狩りに出ようと思う」
「それじゃあ肉をよろしくお願いいたします」
エミリーとゴーシュは狩りに出かけて行った。
僕はフクを探しにギルド内へ戻る。
食堂スペースを見ると、フクはマイペースに食事を続行中だった。
「フクー、まだ食べてるの?」
「カルボナーラがもう、一口でお終いなのニャ。ご主人様の用事は終わったのかニャ?」
「何言ってんだよ、ワイバーンはケアスさんの友達で、山での狩りも問題なくできるって言うからエミリー達は狩りに出かけたぞ」
「おー、ケアスってテイマーなのかニャ。若いのに食いっぷりのいい男だったニャ」
そこへ受付のお姉さんが戻って来る。心無しか顔が火照っている。
「ワイバーン触っちゃったぁ!」
飛び跳ねて興奮している。
「あ、あの、お姉さん。これで依頼しなくてもよくなりましたし、僕達はこれで帰りますね」
「あ、はい、お疲れ様でした…………ケアスさんもカッコイイわぁ」
もはや雑音は聞こえない恋する乙女ってやつですね。放置して帰りましょうか。
まぁなんだ、イベント的にはちょっと楽しかったかな。外に出るとまだまだ人だかりがワイバーンとケアスを取り囲んでいた。それを見ていい事を思い付く。
「ケアスさーん」
人垣を掻き分けてランクS冒険者に近付く。
「ケアスさん、お酒は飲まれます?」
そうなのだ、ワイバーンと一緒に飲みに来てもらったらいい宣伝になるかなって思ったのだ。
「酒は好きだぞ! アンバーに来たのは珍しいエールがあると聞いたからなんだ。ケンジは置いてある店を知っているか?」
「はは、その店はうちの店なんですよ。ささ、ワイバーンさん達も一緒に行きましょう」
これが語り継がれる、アンバーのワイバーン祭りの始まりであった。




