3話
「軽くバーなんてどうですか?それともまだがっつりいきます?」
酔っているので相手が初対面のうら若き娘だとか関係なくなっている。
「そうですねぇ…生ポッピーが飲めるお店ってご存知ですか?」
「若いのに通だねぇ。そこなら歩いてすぐだし、生ポッピーいきますか!」
「ふふっ、こっちですよ〜」
この娘、酔っ払っていてさっきとはキャラが変わってきている。
「あれ〜?そうだっけ?あ、猫ちゃん」
歩けばそこには猫。この地域は野良猫の楽園だ。
ナカを頼み過ぎたのが次第に現れてきて、彼女に腕をとられるままに小路を連れられて行く。腕に当たる柔らかいものにも気付かないまま。
頭が痛い。
んん?裸だ。
辛うじてパンツは履いている。
どうやらベッドに寝ていたようだが、部屋の様子は自宅とは違うし、窓もサッシではなく木枠だった。
「どこだ…ここ?」
着ていたシャツやスーツなどは机の上に畳んで置いてあったので、それを着て部屋を出る。
長い廊下の左右にドアがいくつかあるので、結構大きい建物なのか。左に出てみたら突き当たってしまったので折り返し右手に行く。奥に下へと階段があった。
「降りるしかないよな」
誰にでも言うなく呟いて右足から降りる。
すぐに下から賑やかそうな声が聞こえてくる。酔っ払って一体どこへ来てしまったんだか…不安と共にポケットのXPERICAを取り出してかくにんするが…
「んん?電波が通じない…」
悪い事は続くものだ、今の段階ではここがどこなのか把握できる要素がないときた。
そして、下の階へ着いた。
そこは丸テーブルがいくつかあり、見た事のない服を着た男達が木製のジョッキらしき物で何かを飲んでいた。降りた時に誰もこちらを見なかったのは、ここはいい酒場という証だ。酒場?そう、ここは酒場だ!
キョロキョロと周りを見渡すと、カウンターがあり年配の男性がいる。
「あのー、すみません」
「なんだ、アンタか。昨日は潰れてたようだけどもういいのかい?」
「え?あ、はい…まだ頭痛はしますが。それでですね、ここはどこなんでしょうか?飲んで…どこで記憶がなくなったのか、全く思い出せないんです」
「どこって……見ての通りここは宿だよ。オルカの宿。どうしちまったんだ?アンタ、ここに何度も来てんだぜ?俺の名前も忘れたか?オルカだよ」
「はぁ!?」
ここはタリーズ国の東にあるアンバーという街らしい。そしてオルカの宿。
「スミマセン、全然憶えていません…」
「そうか、いつもご機嫌でマイヤーズんとこのラムに連れられて来てたから、何も心配はしてなかったんだが。ハッハッハ、結構酔ってたんだな」
「ラム…さん…ですか?」
容姿を聞くとどうやらやきとん屋で隣り合わせた娘らしい。何度も会っている?ますます謎だらけだ。
「そ、そのラムさんの家を教えて下さい!」
「何慌ててんのか分からねーけど、うちのチビに案内させてやるよ。おーい!」
カウンターの奥から小さな女の子が出てきた。
「娘のチコリだ。このオジサンをラムの所に連れて行ってくれるか。手伝いは今日はもういいから」
「ん」
チコリは小さな右手を差し出してきた。
「よ、よろしくね」
苦笑気味に手を差し出すと、ギュッと握ったまま歩き出す。
「あ、それじゃ、どうも」
オルカに声をかけながら外へ出た。
「こっち」
チコリに手を引かれながら広い道を歩く。
道は石畳で建物もどこか古い洋風なものばかり。道を行く人々もモフっとした人や耳の長い人と、明らかに知っている人間ではない人々が行き交っていた。
「あの、チコリちゃん」
「ん?」
首を傾げながら振り向いてくる。
「あの人達は何なの?キグルミか何か?」
「んぅ?」
「耳がほらっ、ね、頭の上にあるでしょ?しかもフサフサしてるし。あっちの人なんか耳がチコリちゃんより長くない?」
「ん、猫の人……ん、エルフ」
「マジか…」
「まじか?ん?」
「ああ、ごめんね。教えてくれてありがとう」
ちょっとした単語は理解できないようだが、日本語が公用語の世界らしい。何故だ。
「ジロジロ見られてる」
この格好ではなぁ。
何度か路地を曲がり、一軒の商店らしき建物の前に着いた。店頭には金属のアクセサリーから何かを乾燥させた食品がところ狭しと並べられている。
「ここ?」
チコリは更に店の中へと入っていく。
店員達へ苦笑の顔を見せながら奥へ。
「ん」
「なんだいチコリちゃん?この人は?」
店長さんと思われる人が言う。
「スミマセン。私、ラムさんに用事がありまして、チコリちゃんに連れてきてもらったのですが」
「あ、あああ、貴方様が?」
急に態度がおかしくなった。
「どうかされましたか?」
「賢者様!」
遂には跪かれる。
何、なに、なんなの?