197話
「サラの家族は来なかったね……」
「私は知らせてませんから」
笑顔でそう答えられても、どうしていいか分からないよ。
「健在……なんだよね?」
「はい。ただ……家出同然で飛び出してきたので……顔を見せたと思ったら、結婚しますというのは……」
確かにそれはそうなんだけど、いずれ挨拶に行くなら、早い方がいい訳で。
「けっこん、けっこん、けっこんニャ〜」
フクとチコリがけっこんの歌を歌いながらクルクル回っている。更にそれを見ていた猫ちゃんずがウズウズとしている。ちなみにこの子達もしっかりとウェディングドレスだ。
「アンタがロリコンだったなんてね」
「母ちゃん、それはないよ……」
「だって、あの子達とも結婚するんだろ?」
「猫から好かれたら結婚するしかないだろ? そんなの当然じゃん」
ため息をついて苦笑いの母ちゃんと、隣で笑っている親父。猫のままの姿を何匹も侍らせて、コイツら俺の女房、とか言わないだけマシだろうが!
「いいよなぁ、兄貴はモテて」
「すまんな、リリィも覚醒したらまた俺に惚れちゃったし」
「くぅ……思い出すからリリィの事は言わないでくれよ。俺も王都に支店を出そうかな……ブツブツ…………」
アンバーは冒険者や商人は増えたけど、比率は男性が多いしねぇ。家族で越してきても、女の子だもんねぇ。普通は範疇外だし。冒険者の女性は筋肉ムキムキが多いから、好みが分かれるし。
「お前、エルフがいいんだろ?」
「なっ! 何言ってんだ! トラウマだっての!」
んな事言っても、どっかの島の冒険奇譚に出てくるエルフのポスターを部屋に貼っていただろうに。
「それじゃあ、そろそろいいですかな?」
結婚式は俺ららしく、修道院でやる事になった。すぐにパーティーができるし、できたてのエールも飲み放題だしね。
ここの結婚式は簡素で助かった。
誓いの言葉を言う必要もないし、大勢の前でキスもしなくていい。
但し、新郎はその職業に準じた事を皆の前で披露し、新婦を大事にするという宣言をしなければならなかった。
俺の場合は酒場で働いているという事で、大ジョッキに注がれたエールを飲み干して、そのジョッキを掲げさせられた。
「俺様光臨〜」
「だ、誰?」
「バカ、俺だよ。バッカスだよ」
は? ザシャじゃないじゃん。
「光臨時は素の姿になるんだよ。さて、そんな事はどうでもいい。ケンジよ、神より祝福を! そして、その伴侶達にも祝福を!」
眩い光を放って、バッカスは消えていった。その時に、「たまには俺からも酒をおごってやるよ」というセリフを残し、酒樽を山の様に積んで帰っていったのだった。
「うわ……美味っ。何だこの酒……」
バッカスからの贈り物はとてつもなく美味い酒だった。無色でアルコール度は高くなく、花の様な香りがする。
その酒を俺と奥さん達で来場者に配り、パーティーはスタートした。