195話
あれから一週間が経った。
エルディンガー二世が大統領を斬るのに使った剣は、国宝の魔剣であった。
そして、その魔剣は邪なモノだけを斬る事ができたので、斬られた大統領はいけ好かない人から真逆の……とてもいい人になってしまった。
「大統領、凄くいい人になってしまって気持ち悪いニャ。フクの頭を撫でてくるのニャ」
言葉通り、フクは大統領から頭を撫でられていたけど、何故か満更でもないような表情だ。納得いかない。
「ま、まぁ、いい人になるのはいいけど。急に人が変わって、洗脳でもされたんじゃないかと疑われたりしないか?」
俺の問にラムは首を横に振る。
「いつもの気まぐれって思われるわよ。それでなくても大統領になってから色々と悪影響が出てるから、とりあえずは歓迎されるんじゃないの? ただ、いい人になったからって、いい大統領になるとは限らないけどね」
「そ、そうか。ところでラム。もう、国の仕事は終わりなのか? そろそろ店の仕事もしてほしいのだけど。ほら、王都店も盛況だし……」
さくらに生き別れの兄たもつが会いに来て、これからどうなるか分からないし。
「……だんご、いや、彼女はさくらって名前だったんだけど、お兄さんが会いに来たから、今後も王都店の店長をやってくれるかは分からないんだよ」
「その辺は安心して。私もサラも今日から復帰するから。それに、助っ人のあてもあるのよね」
うん?
「それじゃあ、ラムは王都店。サラはトダ村店に行ってもらおうかな。俺は本店の揚げ物の仕込みをしなくちゃ。その後ろの発泡スチロール箱、中身はアジだったろ」
こうして、大統領は放置プレイで仕込みを始めた。
「あれ? 大統領はどうした?」
「ワシはここにいるが」
「うわっ! まだいたんですか」
大統領は肩を落として店の隅に座っていた。
「まだいたも何も……連れて来たラム君とサラ君は出かけてしまったし、帰り方も分からんのに……ワシはどうしたらいいんだ。こんな異国で一人……」
「スマホは持っていないんですか? ここ、電波は繋がりますよ」
上着の内ポケットをあさる大統領。
「……ああ、スマホは禁止されとったんだった………」
「ええ……いい大人なのに?」
「余計な事を呟くからと補佐官から取り上げられたのだ……何もやることがなくなった。ワシもその仕込とやらを手伝おう」
結局、この大統領は国に帰らずにアンバーに居座る事になった。その結果、大統領が行方不明扱いになり……軍の捜索隊がこの大陸に来たけど、うちの猫耳にヤラれて、メンバー全員がミイラになってしまった。
「店員が増えてよかったじゃない」
とは、ラムの弁だが、イカツイおっさんが増えたので客足が遠のいてしまったんだけど……。
そして、長らく有耶無耶に先延ばしだった結婚をする事となった。