193話
そうだ、そうだった。あのハイエルフは食いしん坊だったわ。
四人を引き連れて向かいの中華酒場へ行く。フクは珍しく俺がいなくなるのに機嫌がいい。そりゃ、仕込みは大事ですからね。
「ごめんください」
まだ暖簾がかかっていない入口から声をかけると、奥からベニが出て来てくれた。
「今日はどうしたニャ?」
「ハイエルフのお客さんがいるって聞いて来たんだけど……見当たらないね」
「ムニャッ?! まだお勘定してもらってないニャよ!」
「ふぅ……ん? ケンジさんじゃないですか、久しぶりですね」
「何だ、トイレでしたかニャ」
「ベニさん、私は食い逃げはしませんよ。ところでケンジさん、何か用事があって来たんじゃないのですか? 後ろの四人が何か聞きたそうにしていますが」
「あ、ああ、この人達が例の指輪を探しているみたいで」
「あれは特別な人にしか譲ってないんですけどねぇ」
「貴方があの指輪の製作者ですか! 是非とも一ついただけないでしょうか。お金ならいくらでも出しますから!」
折れには横柄だった四人だが、エリックには下手に出ている。
「ですからぁ、私が作る指輪は人を選ぶといいますか、まぁ、そんな感じなんですよね。誰から頼まれたから知らないけど、持っていっても無駄だよ」
「どういう事です?」
「大五郎さんやケンジさん、イシカワさんはこの世界に影響を与えていく人達だからね、指輪も喜んで持ち主を守ってくれるのさ。普通の人が指輪を持っても、材質もシルバーに変わってしまうし、要の加護もなくなっちゃうんだよ」
「なるほど……」
「君らの依頼主はそこの所分かってて欲しがっているのかな?」
「……私達はオリハルコンの指輪、それも名工であるハイエルフが作った物と依頼されたのです。見栄っ張りの貴族でしたから、オリハルコンの指輪ってところに物欲が働いたのかと」
「そうですか。ならばこれを」
エリックは小さな巾着袋をリーダーに渡した。
「貴方達の名前を教えてもらえますか?」
「これは失礼しました。私はこのパーティのリーダー、アビー」
「俺はアンディ。力仕事担当だな」
「私はカーラといいます。魔法使いです」
「ワシはピート。見ての通りドワーフじゃ」
「それじゃあ、支払いはここの食事代を代わりに払ってもらう事にして、と。あ、まだまだ食べますからね。そうだ、よかったら貴方達も食べていったらどうです。美味いですよ、ここの料理は」
結局、オリハルコンの指輪は選ばれた者以外がはめると、単なるシルバーの指輪になってしまうそうで……依頼達成後に貴族が触ったかどうかは知らないが、その後のアピール達はトダ村で日本酒を造っている。
「それとね、ケンジさんに伝えておくけど、近々、この国によくないものが来るみたいなんだ。できたら撃退してほしい。今後の歴史によくない影響を与えるからね」
また俺ですか。使える魔法も物の召喚だけだし、武器もろくに扱えないし。そもそも体力もない俺に、重大任務を押し付けてくるのは何故なのか。普通は勇者とか王に頼んだりするんじゃねーの。
「具体的に何が来るのか全く分からんのに、撃退なんてできるんですかね。とりあえず王様に連絡して、ルナ達もこっちで寝泊まりしてもらうか。後は瞳子に情報を集めてもらおう」
賢輔にも力になってもらうか。
何やら風の噂では小さな孤島を買ったらしい。例の光の剣が売れに売れたんだと。真似できる物じゃないから、コピー商品もないし。
何せ重くない剣だから、俺でも振り回すと何となく様になるからな。威嚇だけでも使えればいいし。
「ご主人様、ラムとサラが戻ってきたニャ」
久しぶりにアンバーに帰ってきたか。
しかし、二人は何故か金髪のオッサンと一緒に店の中に入ってきたのだった。
「誰?」