192話
王都からは転移魔法で来たらしいSランクパーティ。パーティ名は『Reviving GoId WoIf』略してRGWは店内に入って来て、断りもなく魔道具で調べ始めたのだ。
「ちょっと、困りますよ!」
注意すると、マッチョの額傷男が睨んでくる。
「勝手に店の中をいじられると困るんですけど」
「ん? お前、王都の酒場にいた……」
「前に一度お会いしましたね。ここが本店なんですよ。それでですね、これから仕込みをしなきゃならないので、勝手に動き回られると困るんですよ。何か用事があるなら仰って下さい」
トダ村のダンジョンのおかげで、お客さんはかなり増えてきているので、仕込みの量も半端ではないのだ。
「ここにブラックドラゴンの反応を追ってきた。来たことがあるだろ?」
また、ブラックドラゴンかよ。その内、そこ名前でカクテルでも売り出そうか。
「ルナですか? この前も来ましたけど、戦うつもりなら止めておいた方が……」
「それはお前には関係ない。情報だけ教えてくれ」
「ルナはブラックドラゴンが人化した少女だけど、今は神と結婚していて俺の実家に住んでるよ」
「神、神だと?」
「邪神かしら」
金髪グラマーが言う。当たりっちゃー当りかもな。
「酒の神、バッカスですよ」
「アチャー」
ドワーフのオッサンが額に手を当てるベタなリアクションをすると、リーダーの女性が俺に近付いてきた。顔が近いです。
「な、何か?」
「何故、王都ではブラックドラゴンの事を話してくれなかったのですか?」
「何故って、ルナは友達ですし、それに悪いやつじゃないんですよ。皆さんは悪いブラックドラゴンを探してるんじゃないんですか?」
だって、知り合いを売るような真似ができる訳ないじゃない。長い事生きているんだろうけど、人の姿の時は少女なんだしさぁ。
「ふむ……誤解させている様ですから言っておきます。私達がブラックドラゴンを探しているのは、あるアイテムを探す依頼を受けたからなのです…………失敗してしまいましたけど」
「なるほど、アイテムをね。どんなアイテムなのか聞いても?」
「そうですねぇ、まぁ、いいでしょう。探しているのはオリハルコンとミスリルの指輪です。何でもハイエルフが造った物だとか」
「それがブラックドラゴンと関係があるんですか?」
「ブラックドラゴンはそのリングの持ち主の周りに現れるのです。今までは全て、去った後でした。しかし、ここには真新しい反応があるようです。そのルナさんに会わせてもらうことはできませんでしょうか」
そう言って、俺の右手を両手で握りしめてきた。それは見た目の麗しさと違い、ゴツゴツとした手だった。
俺はそこに左手を添えた。
「えっ!」
「はいぃ?」
「そ、それっ! それは?!」
急に大声を出すので、他のメンバーもこっちへ寄ってくる。
「それは……オリハルコンの指輪!?」
あー、そういえば嵌めてるのが自然で、すっかり忘れてましたわ。これがあるから異世界でも安全に暮らせていたんだろうな。
「あ、ええ、オリハルコンの指輪ですけど」
「ご主人様ぁ、フクは飽きてきたニャ」
俺の背後からフクが抱き付いてくる。
「んぁっ!」
「今度は何ですか」
「それっ! それっ! 貴女っ、その指輪は?!」
「俺があげたミスリルの指輪ですけど。この指輪から出てくるんですよ」
「見つけた……フフフ………見つけたわ…………これで失敗が取り戻せるわ!」
「これはあげませんよ?」
「えっ?」
「え、じゃなく。これは俺のですから渡しませんって」
リーダーの女性は俺の両手を取って、自分の胸に押し付けた。ほほぅ、餅の様ですなぁ。うあっ、フク、引っ掻くなって。腕を噛むな。
「譲って下さい」
「上目遣いされても駄目なものは駄目です」
「そこを何とか」
「んーって、悩んだりもしませんよ! これは大切な思い出がつまった指輪なんですから」
「お姉ちゃん、指輪が欲しいニャ? お向かいの中華酒場に行けばいいのニャ」
「フク、中華酒場に行くとどうなるんだ?」
「ハイエルフの人が飲んでるニャ」
ん?
あの人がアンバーに来ているのか?