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魔汁キンミャー焼酎を異世界で  作者: 水野しん
第十一章 惹かれ合う世界
189/230

189話

 車、あった方がいいよなぁ。

 瞳子が本来の仕事に戻ったので、使える車がなくなってしまったのだ。


廃車置き場(ヤード)から営業車だった車体をタダ同然で貰ってきたよ」


 立ち飲み 肉球の常連に廃車を扱う人がいてよかった。彼には一月分の飲み代をタダにした。一晩で一万もいかないからね。トントンだろ。


「こんなにあっても運転できるのは限られてるニャ」


「オートマチック車だから簡単だよ。少しだけ練習すればすぐだから」


 目の前には五台の車が鎮座していた。

 どうせボロだから、練習時に擦ったり当てても問題はないのです。


「あっという間に覚えたなぁ」


 猫ちゃんずを始め、バイト達も直ぐに上手くなってしまったのだった。こっちの人は感がいいのか何なのか。ダートの道ばかりでドリフトもこなすようになったし。そるでいて荷物は崩れたりしないの。


「で、今日はだんごは来てくれるんだよね?」


 店にいたのがリリィだったので聞いてみたけど。


「うーん? だんごちゃんは王都店なんじゃないんですか?」


「会わせたい人? そんなのがあって呼んだんだけど。リリィは聞いてなかったか」


 リリィに仕込みを任せて、裏手の転移魔法陣から王都へと向かう。






「最近は勇者として召喚されたのが忘れ去られちゃったニャ……。悪いヤツも出てこないし……酒場の店員さんが板についてしまったのニャ」


 ため息をつきつつ、私は背伸びしながらカウンターを拭いていた。

 とある国の王が部下に命じて、私はこの世界に召喚されたけど、すぐに旅に行かされたので大変な日々だった。

 アンバーで仕事に就かなければ、あの異世界の敵に立ち向かうのは私のはずだったのだけれど、ケンジさん達が適当にあしらって撃退してしまった。王が言っていた魔王ってのがアレだったのかは分からないけど、この世界は今日も平和だし、冒険者達から頭を撫でられるのも気持ちいいと思えてきたのが、何か悔しい。私は猫の姿から戻りたいのに。


「だんごちゃん、本店からケンジさんが来たニャ」


 ラッテちゃんが知らせに来た。ケンジさん、何か用事なのかな。


「やぁ、だんご。店長業務は慣れたかい?」


「勇者だという事を忘れそうニャ」


「ははは。今日来たのは仕事とは関係ないんだけど、だんごに会いたいという人がいてね、その人がアンバーに来てるんだ」


「でも、仕事があるニャよ?」


「終わってからでいいよ。あと、今日は俺もこっちの手伝いに入るわ」


「分かったニャ。それじゃあ、ケンジさんには調理を担当してもらいたいニャ。この店は料理が結構出る様になったニャ。それで、少しだけ忙しかったから助かるニャ」


 どうやら、日本から持ち込んだ調味料の数々が評判になってきているようだ。特に人気なのが中華調味料だった。


「まぁ、確かに万能ではあるけども。で、肉と野菜を炒めたのが出るのか。んー、これならチャーハンにスープもありだよな」


 そう思って、玉子チャーハンとネギ入りのスープを作る。とりあえずまかないとして食べてもらうと、それを見ていた客達からオーダーが入る。


「大将、美味いよこれ!」


「俺はパンよりこっちの方が好きだな」


 十人前を作ったところで新たなお客さんが入って来た。


「嗅いだ事のない香りがしますね……」


「いらっしゃいませニャ」


「あら、可愛い子ね。四人なんだけど大丈夫かしら」


 女性は見るからに高そうな服だし、連れの装備も凄い業物っぽく見える。高ランクの冒険者なんだろうか。


「こちらの席にどうぞニャ」


「ありがとう。あら、お酒も知らないのがあるわ」


 リーダーらしき二十代の女性が言う。茶色の長い髪は少し傷んでいるようだが、見た目は清楚な感じの人だ。


「ビールってのは何だ? それに新エールだぁ? 確かに見た事も聞いた事もねぇ」


 大きな剣を持っている男性が言う。この人も二十代かな。筋肉隆々で額に傷がある。


「ちょっと、食べ物も聞いた事のないものばかりよ!」


 金髪グラマーな女性はメニューを見て驚きの表情だ。王都店は日本の居酒屋メニューを取り揃えている。ここでも鶏の唐揚げは人気だし、揚げ出し豆腐なんてのも女性には人気だったりする。


「ふむ、このキンミャー焼酎というのはさっきの雑貨屋に置いてあったな。ここのは酒精が強いみたいだが」


 これぞドワーフ!みたいな体型のドワーフ……っていう言い方は変なんだけど、昔に観たアニメに出てくるドワーフそのものだった。そういや、リングの作者を探していたドワーフのおっさんはどうしてるかなぁ。あのエルフもまた旅に出て音信不通だし。ちなみにこのドワーフもおっさんだ。髭に白髪が混じってる。


「飲み物はどうしますニャ。お勧めはキンキンに冷えたビールですニャ」


「冷えてるの!?」


「おお、そりゃいいな! それを四つ頼む」


 周りの客達が四人を見てヒソヒソしだした。


「あらあら、私達ってここでも注目を集めちゃうのねぇ」


「お客さん達、有名人なんですか」


 ジョッキを運びつつ聞いてみる。


「ん? ああ、俺達はSランクのパーティだからな。それに最近までブラックドラゴンを追いかけてんだが、つい逃してしまってよ……それで噂になってんだよ」


 なるほど。やっかみか……。


「そうでしたか。美味しいお酒に料理を用意してますので楽しんでいってください」


「おう、ありがとうな」


 ブラックドラゴンは鬼門だな。そう思った夜なのでした。

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