185話
「すげぇ!」
サキはダンジョンに入りたそうだったが、怪我をして出て来る冒険者を見て、黙ってしまった。
「本物なんだな……なぁ、あの人の怪我、大丈夫なのか?」
「あの程度だったらポーションでも魔法でも治せるよ。傷跡も残らないしね」
「そりゃスゴいな。なぁ、こっちとアタシらの国は上手くやってけるのかな」
怪我の治し方一つでも、傷跡を残さないで治すのは日本だと難しい。それがここではできる訳で。
「医者なんか受け入れる人は少ないんじゃないかな」
「やっぱそうかぁ……」
「サキは以外に物事を考えてるのニャ」
「あ、お前ー、小さいのに上から目線過ぎるしぃ」
その時、ダンジョンから強い風が吹いた。レアアイテムが大量に風に乗って舞う。
「うわっ、何だよこれ。ん? 雑誌の切れ端か?…………えっ、裸!?」
ネット全盛の今、見たくらいではどうって事のないヌードグラビアだった。
「何だこれ! 何でダンジョンからこんなのが出てくるんだよ! エロ過ぎて捕まっちまうぞ!」
「サキ、捕まらないから」
「バカッ、捕まるよ、ヌードは御法度だろーが!」
モザイクで隠れてるのは御法度じゃねー。
「ア、アタシは下ネタダメなんだよ……」
真っ赤になってその場にへたり込むサキ。今時珍しい娘だな。まさかと思って手を貸そうとすると、やはり腰が抜けているし。
「ここのダンジョンは、日本の廃棄雑誌がレアアイテムとして出てくるんだよ。ここの人達はサキと一緒でエッチな事に免疫がないんだよ。だからこそのレアアイテム扱いなんだけどね。もう、次に行こうか」
腰の抜けたサキをおぶって、魔法陣から転移した。
王都は相変わらず人が多い。石畳なので埃っぽくないのは助かるけど、道に連なる屋台からはスパイスの香りや、肉の焼ける香りが立ち込め、多種の体臭や荷物を引く獣の匂いが混じり合い、一種独特の空気になっている。
「何だかスゴイね」
サキは鼻を押さえながら眼下に広がる街並みを見ていた。ここは王城のテラス。俺ら立ち飲みチコリのメンバーは、王様から許しを得ているので立ち入りが自由なのだ。
「ちょっとクサいのがたまらないのニャ」
フクは変な匂いフェチだな。まぁ、その内、下水道も整備されるんだろうけど、獣人の排泄物ってのは獣のそれを受け継いでいるらしく、特に匂ってしまうのだった。
「それじゃあ、王都店へ行きますか。ミルクも頑張ってるみたいだしな」
色んな意味で城の中では有名人の俺らは、警備している騎士団にも顔が利く。サキがスマホで写真を撮りまくっているけど、SNSに上げちゃうんだろうなぁ。そこまで俺は知らん。
「オッサンてばすげーな。皆から尊敬されてるぞ。何やったんだよ」
「ここの王様とは友達な訳。それで、危機から救ったり救わなかったり?」
「何で疑問形なんだよ。まぁ、いいや。オッサンも見かけによらずってやつなんだな。アタシは年上好きだから、彼女になってやってもいいんだぜ?」
「シャーッ! 何が彼女になってやってもいいんだぜ、なのニャーッ!」
「ところでこのチビはオッサンの何なんだよ。ペットか?」
「ウニャーッ! 奥さんなのニャ!」
「奥さん……? お前、いくつだよ。どー見てもまだ子供じゃんか。あ、あれだ、天才無免許医の相棒みたいなあれか?」
「アッチョンブリケ!」
どっちもどっちだし、仲いいなオイ。
「と、とりあえず店に行こう」
肩車のフクに腕に引っ付くサキ。威嚇するフクに軽く受け流すサキ。いいコンビに見えてきたぞ。
「下ネタダメなくせに男にくっつくのはいいのか?」
「別に変じゃないだろ? オッサンはおかしな奴だな」
俺じゃなくてお前が少し変なんだよ。
「ほら、あれが立ち飲みチコリ王都店だ。今日も賑やかだな。ん? 店先にいるのは……」
俺を見つけてトタタタタと駆け寄って来るのは……。
「ん!」
「またちっこいのが来たぞ」
「チコリ、どうしたんだ? オルカさんは来ていいって言ったのか?」
「……ん」
「駄目じゃないか、心配しちゃうだろ」
「ご主人様、怒らないであげて欲しいニャ。チコリもご主人様と遊びたいんだニャ」
ちっちゃなエプロンまで着て、店先で客引きしてたのか。なんて健気な。
「チコリ、来る時は誰かと一緒じゃないと駄目だぞ。オルカも俺も、それに皆も心配しちゃうからね」
チコリを抱き上げて店内に入ると、客達が冷やかし始める。
「大将、モテるね!」
「どーだ、羨ましかろう!」
俺はお子様だけにモテるんじゃないんだぞ。ま、モテても一切手を出していませんが……。
「あ、ケンジさん。洗い物を手伝って欲しいニャ! 今日は料理が沢山出ているのニャ」
はいはい、入るやいなや、手伝いですね。ミルクもしっかりしてきたし、感慨深いものが……。
「あ、ここいいですか」
眩しいと思ったら、オハラさんが入って来たよ。ああ、あれの収録ですか。つーか、まだ、文化交流してないはずなんどけどなぁ。