184話
そのヤンキー女子高生サキは、バイトをきっちりこなす娘だった。
「ふーん、他にも店やってんのか。どんな風に仕事してんのか見てみたくはあるな。なぁなぁ、オッサン、今度連れてってくれよ、な、いいだろ?」
口は悪いけど何だかやる気はあるみたいだ。それに、色んな事に興味があるのはいい事だ。特に飲み屋なんてのは話し相手になる場合もあるし、自分の興味の範疇外を振られることもあるからだ。
「サキはいつ休みなんだ? その日だったら連れて行ってもいいぞ」
「ホントか! ありがとな、オッサン」
日焼けしたサキが腕に抱き付いてきたけど、最近の娘は発育がいいねぇ。こんな事をやっていてはフクから怒られちゃうかな。ご主人様はつじょーって。
「ついでだから明日の仕込みを少しやっておくから」
安く仕入れられた牛すじの下処理をやりながら、異世界って何だったんだろう、と考えていた。
「うわぁ、何だここ、映画のセットみてぇだな! うひゃー! 店長みたいなモフモフなのが沢山いる!」
サキはピンクのスウェット上下にビーサンという出で立ちだ。近所のコンビニに行くんじゃないんだぞ、まったくもう。
「何で手を繋いでるんだニャ」
フクが手を引き剥がそうとすると、サキは左手でフクをモフモフしだした。トローンとした目になるフク。
「ウニャー! こうなったら、フクは抱きつくからいいんだニャ」
フクは最近、前にも増してヤキモチを焼くようになったけど、その相手については諦めるのも早くなった気がする。
「第一夫人はヨユーを見せないと駄目なんだニャ」
と、言う事らしい。なるほど。
でも、フクよ。今のお前はまだまだ結婚できる歳じゃないのだよ。
「オッサンはモフモフなのが好みなんだな……ふーん。あ、本店はうちんとこと同じ立ち飲みなんだ。焼台の姉ちゃんはえらい美人だな……耳が長いって事はあれか、エルフってやつか。後はこれまたデカイ胸だなー」
「アタシはメルヴィ。ケンジさん、この方はどなたですか?」
「えーと、俺の国の知り合い。うん、知り合い。少し変わってるけど、悪いやつじゃないから。今日はこっちの国の見学中なんだよ」
訳あって、まだ『立ち飲み 肉球』の事は言えないのだ。
「そうなんですか。その派手な色の服はそちらでは普通に着てるのかしら」
「ああ、これか。欲しいんなら今度持ってきてやるぞ。何色がいいんだ?」
何か知らんけど、あっと言う間に仲良くなってしまった。更にこちらの野菜の味見から調理の仕方もキチンと聞いていたし、サキって見た目と話し方で損をしてるよなぁ。ヤンキーだけど、酒もタバコもやっていないみたいだし。乗ってるバイクも電動なんだと。騒音も撒き散らしてないのね。
「あら、メルヴィってば楽しそうにしてるけど、その子は?」
「ケンジさんが連れて来たサキよ。サキ、こちらはデレシー」
「オッサン、店員にコスプレさせてんのか?」
「させてねーよ! デレシーは兎族なの」
「そ、そうなのか。よろしく、サキです」
「デレシーよ。よかったら触ってみる?」
サキはデレシーの耳をモフっている。そして、スマホを取り出して見せていた。
「こんな格好が似合うと思うんだよねぇ。まぁ、かなり大胆な格好なんだけどさ」
「身体の形が丸分かりなのね……」
赤くなりながらメルヴィとデレシーは少し乗り気になってきていた。本人達が着たかったら、経費で買ってやるけど……イタタ。フクが爪を立てて背中によじ登ってくるし。
「ご主人様は簡単にはつじょーしちゃうから注意が必要ニャ」
「分かった、分かったから。今夜は風呂に一緒に入ってやるから、そんなに怒らないでくれよ」
頭を撫でて耳の後ろをかいてやる。
「おいおいオッサン、こっちが恥ずかしくなっちまうだろ。それに、お客さん達も変な空気になってるし。ほらほら、次の店に連れて行ってよ」
へいへい、空気の読める子は好きよ。店の裏の魔法陣からトダ村店へ移動した。
「ここはうちんとこと同じくらい田舎だなー」
「ん? サキは市内じゃないのか」
「アタシは市内でも藤島だからさ」
藤島というのは市内から離れていて、周りは広大な田んぼが広がる田園地帯だ。何とか鈴木とかいう芸人に、拳銃の弾みたいなバンドのボーカルの出身地でもある。
「そりゃ、大変だな。ま、何かあったら俺か店長に言いなよ」
「送ってってくれるのか?」
「さっきの転移魔法陣を使えばすぐだぞ。まぁ、交通費は出なくなるけどな」
「お! マジか。そうしてくれるとありがたいよ。親兄弟には心配をかけたくないからな」
昨今、色んな事件が起きてるし、夜の仕事は帰る時が心配だからな。
「ああ、でも、あれだぞ、通学にも使っていいけど、魔法陣の事は家族以外には秘密だぞ。まだ政治レベルで許可されていない事だからな」
「オッサンも結構やるじゃん。アウトローってやつ? アナーキー?」
王様とも神様ともベッタリですから。
「それよりほら、あれがダンジョンってやつだぞ」
スマホでダンジョン系のゲームをやっていたのを知っていたので、店より先にここへ連れてきてしまった。




