181話
人のものが欲しくなる魔性の少女の割に、キスで妊娠すると思っていたレモーネ姫。
日本から密入国した野良猫達が流行らせた、キスの挨拶をチョコがレモーネにやったもんだから、話がそれまくる羽目に。でも、俺にとっては都合のよい展開ではある。レモーネに迫られなくていいからだ。
「フク、トダ村のバイトはどうなってる?」
「朝からやるようになったから、三交代にしてるニャ。ロリはそのまま働いてくれてるけど、シャノンはやっぱり週末しか働けないって。新人さんも十人働いてるニャ」
トダ村ダンジョン店は朝から飲めるのが特長であり、朝方にダンジョンから出てきても食事ができるのが嬉しいと評判になっている。
村娘達には好きな服を買わせて、それを仕事着にしてもらっている。あの村にメイド服は似合わなかった。
「ロリは大丈夫なんだろうな」
「契約書を交わしたから大丈夫ニャ。手を出したら多額の賠償金が待ってるニャ」
「しかし、応募してくるのは女の子ばかりなのね」
「そりゃそうだニャ、男は厨房で働くのが普通なのニャ」
既に面接すら担当していない従業員がいるから、顔と名前を覚えるだけで大変ですわ。それに、肉の仕入れもかなり大変。世界が一緒になってから、動物達は何かを察したらしく、姿を消し始めているという。猟師のエミリーとゴーシュも最近は泊りがけで狩りをしているみたいだった。
「肉の足りない分は日本で仕入れるか」
地元の三元豚はやめて、普通の豚肉だ。鮮度がいいから味は負けていない。それと地鶏。いわゆる炭火焼きにして出そうと思っている。噛みごたえがあり、味が濃いのがいいのだ。
こっちでは高級品の玉子料理もメニューに入れた。単なる出汁巻き玉子ですが、これが大人気。耕ちゃんに頼める時に作ってもらう事にしているけど、流石に誰かに練習させないとダメだな。
「相変わらず飲みながらレアアイテムを」見ている客が多いな。それが楽しみなんだろうし、こっちもうるさく言えないのが何とももどかしいな」
「ニコルに頼んで、えっちいのはボケて見えるようにしてもらったニャ」
「お、そうか! フクは気が利くなぁ」
「エヘン!」
いい子いい子と頭をなでてやった。
そして、玉子料理の次に冒険者達に人気があるのが何故かガリであった。生姜はこっちにもあるけど、甘酢漬けにする事はないから、もの珍しさもあるのかな。この調子ではガリサワーも推してみるか。
「そして、王都店か」
「ミルクがヘルプで仕切ってるニャ」
「野良猫だったのに、今や店長候補か。見た目は子供のままなんだけど、支障はないのか?」
人間の姿になった野良ちゃんずから猫ちゃんずになっても、それは呼び名が変わっただけで、見た目は小さな女の子のままなんだよね。
そして、バイトに来る人達は皆、大人な訳で。
「猫好きを採用してるから大丈夫ニャ」
そんなものかねぇ。いや、客達も何かミルクをほわぁっとした目で見ているから、冒険者が酔って喧嘩する事もないみたいだ。ミルクが『めっ!』ってするらしい。
王都店も独自のメニューを展開している。
こちらでは日本の安全な玉子をつけて食べるつくねが人気だ。ミンチにした鶏のもも肉に細かくした鶏皮を混ぜている。そして、何故か調味料のわさびも人気になっていて、空のチューブが量産されていた。こっちの辛味は唐辛子オンリーだもんなぁ。おでんに使っていた和辛子も置いてみるか。
「そういや聞いたか? この辺りの魔物がいなくなったって」
「ランクが上のはいるけどなぁ、雑魚どもはいなくなったな。何でも新たな大陸に移っていったらしいぞ。海を渡る魔物を見たやつもいるし」
客達が聞き捨てならない話題を話している。
「お客さん達、それは本当の話なんですか!」
急に話しかけられてビックリしていたが、店から酒を一杯ご馳走したら、他にも色々話してくれた。
「方向的にアメリカだな……西海岸は魔物で溢れるのか……」
ちなみに海を渡るといっても距離的にはかなりのものがあるけど、魔物にとっては屁でもないみたいだし。
「俺、しーらね」
「ご主人様、投げやりになってないでルナに頼めばいいのニャ」
「ルナに?」
ああ、ブラックドラゴンなんだったな。
「魔物の管理をしている訳でもないのに、あーあ、損な役割だわ」
そんなワケで、本店経由で実家へと戻ったのです。




