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魔汁キンミャー焼酎を異世界で  作者: 水野しん
第十一章 惹かれ合う世界
179/230

179話

「実は今汲んでもらっているのがそうなんだ……何と言うか、酒の歴史を教えてやったらやりたがってな……しかも樽一つ分も造っちまいやがった」


 アイリスの口噛み酒……。

 そのまんまだ、そのまんま。炊いた米を口で噛んで、そこから発酵を促す。古来の手法だけど、巫女が噛んでいたらしいと聞くと、まぁ、アイリスでよかったんじゃないかと。


「問題は、口噛み酒である事をきちんと公表しないと売れないって所だなぁ」


「あ! ケンジさん!」


「ぐはっ」


 アイリスが蔵に入ってきたかと思ったら、思いっ切り助走をつけて飛び込んできやがった。この年頃特有の柔らかい身体が前面に押し付けられると……反応しちゃう訳で。アイリスは気付くと……。


「うわっ!…………」


 ハハハ……アイリスはくっついたり離れたり、忙しいねぇ……。そして、父親である大五郎の視線が痛い。


「結婚前に手を出したら殺すぞ……」


「お父さん!」


「出しませんからっ!」


「ご主人様は夢の中でモゾモゾと頑張ってるのニャ」


 フクよ……何故知ってる…………リリィも右手を見てモジモジしながら匂いを嗅いでって、おい! まさか……!


「ん? どうしたの? 手が止まってるじゃない。ほらほら、ラベルを貼って持っていってちょうだい。次の作業もあるんだからね」


 カレンがやって来て、微妙な空気を撹拌してくれたので助かった。

 しかしリリィの奴、人が寝てる間に何やってくれてんだか。


 久しぶりにベッタリのにリリィが牽制していて、フクは真面目にラベル貼りに(いそ)しんでいる。大五郎とカレンは他の作業を始めている。


「それじゃあ瞳子さんを呼ぶか」


 瞳子さんには社用車のライトバンを、こっそりと持ってきてもらっていた。免許があるのは俺と彼女だけなので、スマホで連絡してトダ村まで来てもらう。

 世界が一緒になっても、何故かこの国には日本の携帯電話の電波が入るのだった。






 立ち飲みチコリに新しいバイトが入った。

 アンバー本店に週末二日だけのトダ村出張所、新たにオープンした王都支店と三店舗を構える様になり、表向きはまだ行われていないはずの輸出入なのだが、実は細々としたものは行われているのだった。

 中でも食料品などの王国への輸入は王様も黙認していて、今では食べ物屋のレベルが数段とアップしていて、前より夜の賑わいも増しているのだった。

 そして、そこへソーラーシステム内臓の看板などが持ち込まれ、明るさの面でも賑やかになっている。


「それで、二人とも肉も魚も捌けるんですか。それは助かります。仕込みと調理をメインにして、忙しい時は配膳も頼みますね」


 新しいバイトは本店に二人。

 人族で二十歳の『メルヴィ』と兎族で十八歳の『デレシー』で、ここでは年長さんになる。

 見た目は派手なメルヴィだけど、なかなか気の利くお嬢さんの様だし、デレシーは長い耳がキュートで、冒険者達を早速トリコにしている。

 猫ちゃんずのバニラとチョコが本店に残っているけど、年下の彼女らの言う事もキチンと聞いているみたいだし、とりあえず本店は安心だな。

 モカとラッテにミルクは王都店を回してもらっていて、転生勇者のだんごにも店長として頑張ってもらっている。だんごも元の世界に帰られればいいのだけど、今のところ無理みたいだ。元々は人間との事だったけど、猫耳が付いた今の姿も可愛くていいのに。


「お、マスター、新しい娘入れたんだ」


 常連の冒険者が入ってくるなり話しかけてきた。やはりこっちの男性は目ざといなぁ。


「彼女ら料理担当だから、どんどん注文よろしく」


 そして、オーナー兼店長のラムは、何と俺の遠縁だった。

 本家のコネで、期間限定の特使として日本で働かせられている。引っ切り無しに連絡してきて、早く戻りたいと言ってくるけど、適材適所だ!と、本家に言われたら俺にはどうにもならないよ。頑張れとしか言えなくてゴメンな。それに、サラも助手でついて行ってるし、ちくわとささみもいるじゃんか。こっちは猫分が少なくなって、モフモフできていないんだから。


 向かいの中華酒場も、オハラさんの手腕で王都に三店舗も出店したそうな。その内の一店舗は、フクの家族が引っ越して、住み込みで働いているとの事だった。


「で、オハラさんは放浪の旅に出たと……」


 フクの姉であるベニちゃんが言うには、異世界へ来る前の仕事に戻らなくてはならなくて、少しの間、収録の旅に出たらしい。寂しいからって、仕事を放り出してフクに構いに来ちゃっていいのかな。


「で、この娘はどなた?」


 店の奥で椅子に座って寝ている少女。


「知らないのニャ」


「ふーん? まぁいいか。起きたら聞けばいいし」

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