175話
「なるほど、果物を自分で絞るんですか」
「そう、すると指に皮や果実の香りが付くでしょ? 飲む時にその香りも一緒になるから更に美味しく飲めるんだよ」
ニコルに生絞りサワーの良さを説明すると、指の匂いを嗅いでくるので何か変な感じになる。猫だった頃のフクを思い出す。
「しかし、主の料理は日本酒にとても合うな。アンバーでも主流は簡単にできる串焼きばかりだし、基本、塩味一辺倒。調味料の製造から考えていかねばならぬか……」
「確かにそうですね、調味料が豊富にあれば料理の幅も広がりますね」
おひたしや煮物も食べて、日本酒も一人三種類は飲んだので、支払いを済ませて次の店へ行く事にする。
歩いて数秒。
三軒隣のワインバルである。
ここも耕ちゃんの系列店ではあるけど、店長のおーちゃんが作る料理の美味いこと美味いこと。ワインが進みまくるのよね。
狭い立ち飲みだけど、老若男女から愛されている酒場なのです。
「ここは葡萄酒か」
「王様、葡萄酒は葡萄酒でも、ワインと言いましてかなり洗練された酒になっています。とにかく飲んでみましょう」
まずは泡からスタートだ。
とにかく色々飲んで、食べてもらいたい。
「うわ! これは美味しいです! 同じ葡萄からできているとは思えないくらいです」
ニコルは一気に飲み干して、おーちゃんからおかわりを注いでもらっている。飲むのはえーよ。
「ここはどの飲み物も冷やされているんですね。しかも魔法ではなく」
しげしげと酒瓶の入った冷蔵庫を見るニコル。
「この世界の道具は稲妻と似たような力を使って動いているけど、それの整備にはお金も労力もかかるよ。使う量によってお金も払わなければならないし」
「水も豊富に使えているようだが」
「これも川などの水を飲めるまで綺麗にして、いつでも使えるようにしています」
王様が感心しきっていると、そこに最初の料理ができてくる。刻んだパクチーに特製のミートソースがかけてある。これがいいアテになるのだ。
われわれは面倒くさいのでワインを数本ボトル買いして飲みまくった。
三軒目は座る事にして、階段を登った所の串揚げ屋にした。ここは酒の種類も豊富で安く、サラリーマンなどでごった返していた。
「キンミャー焼酎の梅割りを五つと、ポテトサラダにお任せ串揚げで」
「むむ? 串に刺してはあるが……これは……フライだな?」
「そうです、串揚げというフライです」
五人でつまむと、串揚げはあっという間になくなる。
串揚げの美味しさにこっちもあっちもない。
「しかし、同じ様な服装の人間が多いのだな」
「あれが仕事着ですから。仕事帰りに一杯やりに寄るんですよ。この街はそんな街なんです」
ニコルは犬耳尻尾なので、この待ちではかなり目を惹いている。普通の服装をさせているので、コスプレともまた違った空気をまとっていて、酒の入った男共は好奇の目で見ていた。
「何だか視線を感じるのですが。ここも獣人は嫌われているのですか?」
「違うよ。ここでは獣人は物語のキャラクターだから、モフモフの耳や尻尾があると珍しいんだよ」
「なるほど……」
梅割りからレモンサワーにして、串揚げの追加をつまむ。入口に客が溜まりだしたのでそろそろ河岸を変えるか。