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魔汁キンミャー焼酎を異世界で  作者: 水野しん
第十一章 惹かれ合う世界
174/230

174話

 商店街を進んで早稲田通りを渡ると、そこは路地に飲食店がひしめき合う昭和新道(しょうわしんみち)通りだ。ここは野良ちゃんも多くて、猫好きにはたまらない街なんだよなぁ。

 ここは後で来るとして、とりあえず突っ切ってしまう。突き当りで右に曲がって、コンビニの所を左だ。


「もう少しです……えーと、そこを左に曲がります」


 未だにキョロキョロしている王様とニコルを従えて、メインの酒場通りを少し歩いいると肉の焼ける香りが漂ってくる。


「いい香りだな……ここじゃないのか?」


「ははっ、すみません、この先の店です。王様も会った事がありますよね、耕ちゃんの店ですよ」


「そうか! あの者の店か!」


「かなり狭いので驚かないで下さいね」


 大勢の客で賑わう焼肉屋の角を右に曲がると、数軒先にお目当ての店はあるのだ。隣のラムを見るとワクワクしているのが分かってこちらも笑顔になる。この店はそんな店なんだよなぁ。


「さて、着きましたよ。耕ちゃん、少し多いんだけど……」


 通常は一グルーブ多くて三人が限界なんだけど、今日はお願いして入れてもらった。


「ふむ、こぢんまりしてはいるが、物の配置は考えられているな」


「折角ですから日本酒にしますか。色んな銘柄がありますよ」


「そうだな、そこはケンジに任せるとしよう」


 隣でニコルも頷いている。


「渋い立ち飲みなんですね。うわぁ、食べ物メニューも凄く沢山ありますよ」


 瞳子も気に入ったようだな。

 皆の好みを聞いてから耕ちゃんに銘柄はお任せする。


「つまみは刺し身の五点盛りと鶏もつ煮にほや刺し身、合鴨ロース、くじらステーキでお願いします」


 外からの風が心地よく、それぞれ似注がれた日本酒で乾杯する。


「ほぅ、これは……」


 王様が飲んでいるのは九州は佐賀の鍋島のサマームーンだ。フルーティーで夏向けの酒だ。

 ニコルは薄濁りの発泡日本酒、上喜元の酒和地(しゅわっち)だな。目を丸くして飲んでるよ。


「お気に召しましたか?」


 手の空いた耕ちゃんが話しかけてきた。

 忙しい時は話したりできないんだけど、時々酒について話したりするのが、また楽しいんだよね。


「この透明な魚の身にとても良く合う。アンバーで食べたおでんもたいそう美味かったが、生の魚がこんなにも美味いとは、この酒がそれに相乗効果をもたらしているのだな」


 隣で瞳子は一眼レフを取り出して写真を撮っていた。何でも酒場記事の連載を始めるそうだ。昨日の今日で何とも素早い事ですな。


「このほやもなかなか美味い……」


 ニコルは珍味好きの様だ。ほやがもうない。


「この国の酒場はやはりレベルが違い過ぎる。食でこの差では他ではどうなる。光り輝く看板、夜でもこんなに明るい街……」


 王様はそこまで言うと黙ってしまった。確かにこの文明の違いは時刻の文化を滅ぼしてしまうと考えるんだろうね。魔法も使える人だけが優位であって、国も文化も関係なくなったら武器には使えないし。


「一喜一憂にはいかない事ですよ。百年単位で交流しなければいけません。それには、王様を始めとした各国が今以上に手を繋いで、更にはバッカスにも協力を頼みましょう。神を先頭に立て、交渉すれば侵略も搾取もされませんよ。ドラゴンとなんか戦いたくないですしね」


 シリアスな話をしている後ろでは、声優の話題で盛り上がっている若者達がいる。


「まぁ、何とかしますよ。うちの家系はそんなのが仕事みたいですし」


 まだまだ宵の口。

 これからが本番なのである。

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