173話
「知らない番号から電話がきまくってる……」
「出なさいよ」
「ええー、やだよ。どうせ、最初のみたいにマスコミの取材だろ? 生放送で見世物扱いになるのなんてまっぴらごめんだよ」
世界地図二つが一つになって二日目。
早くも、俺らの世界各国が我先にと新しい大陸へと使者を派遣した。当然ながらこの国へも来たらしい。しかも日本からだと。この辺は瞳子の情報が政府レベルまで上がっていったのかもな。
エルディンガー二世は文化の違いから、すぐに全面的な交流をするのは無理と判断したらしい。そりゃそうだ、科学と魔法はすぐには相容れない。電気にガス、水道とインフラが普通な世界とそうではない世界だし。しかし、大陸の地下に埋まっているかもしれない鉱物などを求めて、各国は躍起だ。王様はこの半日でゲッソリしつつ、今は居酒屋チコリ王都店でストレス発散中だ。
俺とラム、瞳子にリリィを加えたメンバーは、居酒屋チコリ王都店の新規店員が慣れるまでヘルプで通う事にしたので、王様からの愚痴を聞きつつ、日本を始め各国の事をはなしているところなのだ。
王都はこの国の中でも特に獣人が多く住んでいるので、日本からの使者はかなり興奮の様子だったとか。どこにでもケモナーは紛れているのであった。
「ケンジ達の国の使者は沢山の日本酒を持ってきていたぞ。酒があの様に沢山あるとは……」
「王様、飲み屋の形態も様々ですよ。一度、お忍びで行ってみますか?」
文化を垣間見る事ができるので、それもいいかな、と簡単に考えての提案だった訳ですが。
「うむ! それはいいアイディアだな。庶民レベルでの文化を体験してみない事には、この様になった世界では瞬く間に争い事になるであろう。如何ともしがたい事だな。仕事は山積みであるのだが、運がいい事に頼もしい部下ばかりでな、すぐにでも行動に移せるぞ」
酒の事になるとやる気満々だな。
「それじゃあ、着替えを用意しますから、少しお待ち下さい」
久しぶりに召喚魔法で服を取り寄せる。イメージとしてはどこにでもいそうなアメリカのオヤジだ。変にオシャレにしちゃうと王様は目立って仕方がないからな。
着替えてもらって、最後に薄めのサングラスを渡す。宮廷魔術師のニコルも来たがったので、そっちは女性陣にコーディネートを任せた。
「それでは瞳子が運転して、助手席に俺。後部座席は真ん中が王様で、ラムとニコルが両サイドね。狭いけど、万が一を考えるとどうしても配置がこうなるので……。それでは転移魔法をお願いしますか」
「中野の路地裏に行きまーす」
ラムの転移魔法で移動したのは東京都中野区の住宅街だった。
コインパーキングが至る所にあるので、チンクエチェントを停めて移動する。
少し歩くと商店街に出るので、キョロキョロしている王様とニコルを脇から挟みながら歩いていく。
「道が石畳とも違う……歩きやすいな。それにこの漂う香ばしい香りは……」
「この通りは鶏肉専門店が沢山あったんてますけどね、今はここだけです」
店頭で炭火焼きの焼き鳥を売っている店に来た。
タレが焦げる香りがたまらない。
「すみません、ぼんじりのタレを五本ください」
「うまっ!」
ニコルは尻尾をピンと立てて頬張っている。アンバー的にもタレはうちの店しか出していないしね。
「うーむ、食文化はかなり先を行っているのだな。それに服がカラフルだな」
「それでは俺とラムのお気に入りの飲み屋街をご案内します」




