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魔汁キンミャー焼酎を異世界で  作者: 水野しん
第十章 魔王という名の
170/230

170話

 焼き台の前はとにかく暑い。

 ついでに指も熱い!

 煙で顔は汚れてくるし……。


「ん? 何だあの雲」


 猪串を焼きながらふと空を見上げたら、にじ色に光る大きな雲が山の向こうからこちらに流れてきていた。

 目を凝らすと、その雲の下から何が沢山出てくるのが見える。人影? フライングヒューマノイド?


「に、しちゃあ、羽があるな」


 周りの人間は誰一人として気付いていない。


「おーい、ラム。ちょっと来てくれ」


「何ー?」


 空を指差して知らせる。


「え? 何あれ……まさか」


「多分、そのまさかかも。ラムは皆に知らせてくれないか。俺はお客さん達を誘導するから」


 酔っ払い達は言うことを聞かないから、泣く泣く飲み代をタダにすることにして店の裏手から逃がす。

 その間も虹色の雲からは沢山の人影が出てきている。

 その中の集団の一つが急降下し始めた。


「ヤバい、あの辺はトダ村じゃないか!」


 ポケットからスマホを取り出して大五郎をコールする。


「あ、俺、ケンジ。うん、それは敵だと思う。うん……ダンジョン内のセーフゾーンに避難してほしい。よろしく」


 やはり羽の生えた奴らは攻撃を仕掛けてきたらしい。凄まじいエフェクトの魔法攻撃や剣の打撃らしいけど、当たっても痛くないんだと。それでも一応、避難はしてもらう。子供でも倒せそうな感じがするんだけどねぇ。

 瞳子にお願いしてトダ村までチンクエチェントで走ってもらうか。アイリスを呼ばないとこっちの作戦に支障をきたすし。


「王様は流石に素早い到着ですね」


「相手が動いたとなるとこちらも動かざるをえないからな。何やら見掛け倒しだと聞いたが?」


「攻撃に威力が全くないみたいなんですよ」


「何なんだそれは」


 二人で首を傾げながら話していると、宮廷魔術師のニコルが会話に混ざってきた。


「興味深い……」


「ニコルは原因に心当たりが?」


「とりあえず見てみたい。ケンジ、見てこよう」


 言うや否や、転移魔法でトダ村まで瞬間移動させられた。


「家に攻撃してるみたいだけど……ビクトもしてないね。ニコルはどう思ってるの?」


「敵は精神体でしょ? この世界の人間に乗り移って力を発揮しようとしても、力が伴わないのかもしれないわね……」


「試しにこっちから攻撃してみたら? もちろん、気絶するくらいで」


 ニコルは杖を振りかざして魔法を発動させた。稲妻がまとまっていた敵に落ちると、気絶した瞬間に精神体が出るのが見えた。弱っ。


「……弱いね」


「これだったら広域魔法で一網打尽できちゃうけど……どうする?」


「やってもらっていいかな?」


 こうしてトダ村の敵は一掃され、取り憑かれていた人々を助ける事ができた。どうやら、かなり遠くの国の人達らしく、敵も星の反対側にある本拠地近くで乗っ取りを行ったようだ。この星のいい所は、言葉が共通して日本語な所だ。下手なダジャレも笑ってくれる人がいる。


「この人達は送っていけるの?」


「私にかかればあっと言う間よ。ちょっと待ってて、行ってくるから」


 ニコルは集まった人達を連れて消えたと思ったら、五分位で戻ってきた。きちんと戻してきたのかは確認するすべはないんだけどね。


「ダンジョンにも敵は蹴散らしたって知らせをしに行かないと」


 大五郎もあっけにとられていたけど、何だよ、敵はこの世界で物理的に攻撃できないのが分かったから、城の火事みたいな地味な攻撃を阻止しないといけなくなった。こっちの方が難しい気がするんだけど、見回りを多くする事で対応する事になった。冒険者達をその任につかせる事にする。王様がお金は出してくれるってさ。


「ついでだから日本酒をもらっていくよ」


 純米大吟醸 大五郎が遂に完成していた。

 米を磨きに磨き抜いて(かも)したこの酒は、名前とは裏腹に上品な吟醸香にスキッとした後味で、冷や(常温)でも美味しいのだった。


「アイリスを連れて行く予定もなくなっちゃったなぁ……」


 そう言うと、アイリスはイヤイヤ言いながら抱き付いてくるのだった。でもねぇ、敵も撃退できちゃったし。


「最近は真面目に酒造りに勤しんでいたから、街に行ってきてもいいぞ」


「叔父さん……」


「ロリも行きたいなぁ」


「うわっ! どこから湧いてきた!」


「酷い言い様ね」


「ケンジはモテモテね」


「ニコルも茶化さないでくれよ」


 こうして呆気なく終わったトダ村の戦いは、女の子二人をアンバーまで連れて行く事で終了となったのでした。











「何が起こったのだ……神殺しの副作用なのか…………」

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