166話
「ほぅ、それが本当なら取り敢えず我らが有利という事だな」
「用心だけは怠りませんけどね」
俺はエルディンガー二世に情報を伝えた。
宮廷魔術師ニコルは王都に用事で戻っているらしい。なので、騎士団長ノーラにも一緒に聞いてもらった。
「この世界が丸いのは分ったが、敵がその反対題側にいるとは……転移魔法でも一度に送れるのは十人程度です」
そのレベルの魔法が使えるのは数名しかいないとの事だった。そうなると計画も再考しなければならなくなるな。
「お邪魔していいかしら」
「……母ちゃん」
「転移魔法なら私達に任せなさい。一族総出で任務にあたります。ケンジ、私らの一族は転移魔法が使える人間が多いんだよ。アンタは物の転移みたいだけど」
「そんな話初めて聞いたぞ」
「親類の話し合いで、もう他の世界に干渉するのは止めていこうって事になってね、それであたしらの代からは子供に教えてこなかったんだ。ややこしい事になっただろ?」
「ふむ、ケンジの母とはどこかで会ったような気がするのだが……」
王様の一言で母ちゃんが笑い出す。
「エルちゃん、忘れたのかい? おむつを替えてやったっていうのに。乳母のナタリーだよ。あの時代もちょっと用事があってね、生活していた時期があったのよ」
「そういえば面影がナタリーだ」
母ちゃんは何してくれてんの。二重生活にも程がある。
「ケンジの母上は凄い方なのだな」
ノーラさん、それは違うと思いますよ。母ちゃんは好奇心の塊の様な人だから、異世界に行けると知ってからは色々やったんだと思う。現に、母ちゃんも仕事で遅くなる事が多かったからな。きっとその時は異世界で忙しかったんだと、今にしたら思うよ。
「それでは転移魔法は使えるという事で、作戦決行は一月後とする」
エルディンガー二世はそう逝って立ち上がった。
「さて、アリスの世界も何とかしなくちゃな。今度の週末はダンジョンの出店を休みにして、母ちゃんの力を借りて行ってみるか。問題は一緒に行くメンバーだけど……」
立ち飲みチコリは休みにしたくない。したくないからメンバーの厳選には悩んでしまう。
グラスに氷とキンミャー焼酎を入れ、炭酸で割る。それを飲みながらあーだこーだと悩んでいる。
だって、アリスったらパラレルワールドのケンジの娘で、彼女からしたら見た目も何もかも一緒な父親が目の前にいる訳で……さっきからニコニコして、椅子に座って脚をバタバタさせている。アリスにはミルクたっぷりのバナナジュースを作ってあげた。
「お父さん、これ凄く美味しいです」
「お代わりもあるから、欲しくなったら言いなさい」
隣ではフクが俺の真似をしてウンウン唸りながら悩んでいる。
「フクは何をしてるんだ?」
「ご主人様! フクは一緒に行きたいですニャ!」
「うーん、フクは変身すれば強くなれるから連れて行ってもいいけど、怪我したりするかもしれないよ?」
フクにはぬくぬくしてもらいたいのだが、一度言ったら聞かないのもフク。そんなフクにはキウイジュースを渡す。
「ご主人様……これ、凄く美味しいですニャ! お酒ですかニャ?」
「アルコールは入っていないよ」
「ん!」
チコリがフクにキウイの枝を与えている。
「何ですかニャァ……木が美味しいですニャァ……」
「チコリ……分かってやってんだろ。このこのこの!」
体中をくすぐってやると、悶ながら抱き付いてくる。
抱き上げて膝の上に乗せると、チコリもアリスの世界に行きたいと言う。
「オルカさん、心配するんじゃないの? え? 大丈夫?」
何故か知らんけど、俺はオルカさんに絶大の信頼を得ているらしい。どこでどうなった。
「ん」
オルカの一族はトカゲに助けられた逸話が残っているそうで、トカゲに変身できた俺は崇める存在なんだそうな……それにチコリもトカゲに変身できたのを感謝しているとか。
「変わってるんだな……チコリとはコンビで戦うと強そうな気もするし、連れて行くことにするか」
チコリは膝の上で大喜びだ。
連れて行くのが子供ばかりで大丈夫なんだろうか……。




