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魔汁キンミャー焼酎を異世界で  作者: 水野しん
第十章 魔王という名の
164/230

164話

 ムツの街は予想したよりも大きく、色々チェックされて中に入るにはお金も必要なのだった。持っててよかった銀貨ちゃん。


「さて、元の世界に戻るにはどうしたらいいんだろうな」


 独り言も言いたくなるよね。全く何をやったらいいのか分からないんだもんなぁ。

 教会とかどうなんだろうな。相談にのってくれるか……微妙な気もするけど行ってみるか。




 教会がない。


 て、事は……宗教がない?


「どんな世界なんだよ。てか、神様って存在も知らないのかいないのか」


 とにかく情報がないことにはこの世界で生きて行けない。情報と言えば定番は酒場だな。酒場、酒場……どこだろう。


「すみません、これ下さい」


 八百屋でリンゴみたいな果物を買うついでに、酒場の場所を聞いてみた。


「この裏手に、酒場街が。はい、ありがとうございました」


 店の横から裏手に出てみれば、夕方なので既に飲み始めている人達が店先にいたりする。自然に立ち飲みになっているのがいいね。

 少し通りを歩いてみて良さ気な店に入ってみると、そこの焼台には見た事のあるエルフが立っていた。


「ナターシャ?」


「はい? お嬢さん、初めて見る顔だけど私の事知ってるの?」


「ま、まぁね。ところでイシカワ(大将)さんはいないの?」


「これまた懐かしい名前だねぇ。旦那はとっくの昔に亡くなってしまったよ。普通の人族だったからね」


 て、事は、ここは?


「あの……? ここはアンバーなんですか?」


「そうだよ、旧アンバーで今はムツって言うんだ。国も変わったしね……魔王との戦いで何もかも変わってしまったんだよ。まぁ、お嬢さんくらい若い人はもう知らないと思うけどね。昔話さ」


「ははは、異世界じゃなかったんだ……タイムスリップかよ」


「で、飲んでくかい? 今はこれがメインだよ」


 小さめのグラスに注いでくれたのは透明な酒だった。彼女はそれに黄金色の液体を少し垂らした。


「これは?」


「キンミャーの梅割りだよ。もつ焼き屋の定番だろ? ちなみにうちは杯数制限はないからね」


 よく見たらこのカウンターって兄ちゃんの店だ。

 もう、ナターシャ以外は誰もいなくなってしまったのか。

 そもそも、魔王って何だ? 兄ちゃんはそんなものと戦ったのか? いや、待てよ。敵対していたのはマモル達だし、その仲間の俺か。

 まさかな……。


「いただきます……」


 キンミャー焼酎の梅割りは空きっ腹に効くねぇ。


「ところで、ケンジはどうなった?」


「何だい、ケンジの事も知ってんかい。あの人は魔王と戦って刺し違えたよ。だからまだこの店もやっていけてるんだ。知ってたかい? 魔王はケンジの弟さんだったんだよ」


「え!?」


「ケンジには感謝しなくちゃねぇ。結局、元の世界も巻き込まれて消滅しちゃったって話だし」


「はぁっ?」


「もう昔の話さ。さぁ、この辺じゃ猪もいなくなったから焼き鳥だけど食べていってよ。ふふ、このタレだけは守れたんだよね。秘伝のタレだから、自身があるんだ」


 その焼き鳥を頬張ると口の中に鶏の脂がジュワッとほとばしる。肉は噛みごたえがあるから、いわゆる地鶏ってやつだな。それにタレが美味い。何度も付けては焼いているから、鶏の旨味が混ざり込んでいるんだな。イシカワ(大将)さんの味は引き継がれている。

 しかし、この未来が望まれているなんて事はないよな。

 とにかく元の時間に戻らねばならない。これでハッキリした。俺が魔王なんだ。あのマモルに取り憑いている奴とその仲間を撃退しないと。


「ナターシャ、この店は昔のままなのかい」


 そう、確か裏手に転移魔法陣があったはずだ。






「ゴミだらけだな……」


 くじら肉祭りも終わり、翌日、店の皆で通りの掃除をしている。店をやっている人達も協力してくれていて、一箇所に集めてはサラの火魔法で焼却している。


「サラもタフだねぇ、あんなに踊りながら歌っててさ」


「若いですから!」


 それを言われちゃうとオジサンはツライよ。年齢だけはどうしようもないからね。




「さて、今度はいつの時代だ」


「キャッ」


「ん? リリィ、リリィじゃないか! あ、もうあのリリィじゃないんだな」


「ビックリしたぁ。初めて見る顔だけど、魔法陣から出てきたって事は日本から来たの?」


 姿を変えたままでよかったな。


「ん、まぁね。ケンジはいる?」


「外で掃除してるけど、呼んでこようか?」


 よし! ようやくケンジのいる時代に来れたな。これならさほどの時差も関係なさそうだ。戦争をしてる気配がしないし。


「いや、いいよ」


 店内を通り表に出ると、ケンジ達がゴミ拾いをしていた。

 俺は茶目っ気たっぷりに抱き付いてやった。


「お兄ちゃん!」

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