162話
「リリィ、仕事中はちょっと困るんだけど」
エルフの姿になってからのリリィは俺の腕にしがみついて離れない。フクは威嚇しつつ脚にしがみついてるし、チコリも対抗心からか背中からよじ登ってきている。
「私の運命の人です。離したくありません」
「フクのご主人様ニャー!」
「んー?」
「ちょっと、いい加減に仕事に戻ってよね。リリィも何だか分からないけど、働かないなら出て言ってもらうわよ! フクちゃんもいい加減にしなさい。チコリちゃんは……そのままでいいわよー」
ラムから怒られてやんの。
「ううー、ラムさんは意地悪です……」
「うにゃー、ラムは発情してるのニャー」
「なっ! 何言ってるの、フクちゃん!」
今度はラムまで巻き込んで、仲いいんだか悪いんだか……俺は早く仕事に戻らないとヤバイな。表はてんやわんやなんじゃないのか?
「チコリはまだ、大きくなったら俺と結婚してくれるのかい?」
肩車したチコリに聞いてみる。
「する!」
「そっか、ありがとな。それじゃあ、仕事に戻ろっか」
「ん!」
新エールにビールの樽を持ち、店内に戻ると、そこは阿鼻叫喚。洗い物の山に泣きそうなナターシャ、お尻にタッチされまくりのだんご、猫ちゃんずも駆け回っている。
「よし!」
気合を入れて空の樽を入れ替え、洗い物をちゃちゃっと終わらす。
料理もそろそろなくなる寸前なので、追加の串打ちをしてナターシャに渡し、少し休憩してもらうべくバニラを呼ぶ。後は猪、くじらで簡単な肉豆腐を作って煮込みがなくなったら入れ替える。
耕ちゃんはおでんにかかりっきりで、それ以外はくじらの刺し身を作るので手一杯になっている。
そう言えばイシカワさんは……。
「ケンジくん、こっちこっち!」
「イシカワさん、何やってるんですか」
「塩ホルモンだよ、塩ホルモン! 猪だって丁寧に処理すればこの通り! そしてー、耕ちゃんから分けてもらったくじらの腸も下味を付けて焼いてみたよ。ほら、試食してみよう」
炭火で焼いているから凄く香ばしい。そして、余計な脂も落ちて、燻されて風味を増している感じだな。
「はっ! 美味っ! 何だこれ!」
「ハッハッハ、予想を超えて美味いねぇ」
この世界の猪の肉も美味いけどモツの美味いこと! 今まで捨てていたんだぜ、これ。
「大将、凄え! って、後ろ見て」
「え? どうしたの?」
大将のホルモンを求めて列ができていた。
「売る予定してなかったんだけど、どうしようか」
大将は苦笑しながらホルモンを焼いている。
「銅貨何枚かで一人一皿。それでどうてすか? 皿なら魔法で、ほら、プラスティックフォークと一緒にここに置いておきますから」
内臓を食べるのが普通になれば、猪の他の獲物も捨てる所を少なくできるしいいんじゃないかな。
「ミルクも手伝いで置いときますね。大将を手伝ってね」
「ミルクちゃんか、まずは売る物の味を知らないとな。はい、食べてみて」
「はにゃー! ミルクは肉よりこっちが好きだニャ!」
気に入ったようだね。しかし、アンバーにはこんなにも人が住んでいたんだねぇ。
「もう一曲いくよー!」
サラもちくわとささみ、ルナを巻き込んで盛り上がってるな。バッカスは……サイリウム振ってるよ…………何故。