16話
修道院、肉屋に八百屋、魚屋、雑貨屋など、これからお世話になる店の人達をプレオープンに招待していた。
店のキャパシティは店内立ち飲みで二十人ほど。外の店頭スペースで十五人前後はいける感じだけど、今日はそれより少しオーバーしそうな気がする。 それでも、忙しい時の対応に慣れる意味ではキャパオーバーはいい事かもしれない。大切な仕事になるな。
十七時からプレオープン開始だったけど、皆さん商売をしている人達なので、三十分を過ぎた頃にようやくやってきてくれた。これでも皆さん早目に仕事を済ませてきてくれたようである。
「やあケンジさん、今日はうちの肉がどう仕事されるのか楽しみにしてきましたぞ」
恰幅の良い肉屋のオヤジはすこぶる笑顔だ。そして、隣には奥さんと娘さんも連れてきている。
「期待に応えられるよう頑張りますので。お酒が苦手な方にはフルーツジュースやお茶もありますのでお申し付け下さい」
そうこうしているうちに招待客の大半が集まった。
賑やかな店頭を見て、街の人達も何だ何だと言わんばかりに人垣を作っていったけど、残念ながら招待客のみ入店なのです。
「本日はお忙しい中、こんなにも集まって頂き感謝申し上げます。私、ケンジは、ここにいるオーナーのラムからの依頼で、この街へは酒文化を発展させる為にやって参りました。そこで、本日は新しいタイプの酒場の提案と新たなエールを提供させて頂こうと思っております。それではラムから一言頂きます」
ラムはメイド服に着替えて、頭にはカチューシャを付けていた。
「皆様、立ち飲みチコリのオーナー兼店長のラムです。本日はプレオープンの為に至らぬ所もあると思いますが、思う存分楽しんで頂けたらと思います!」
「店名はチコリにしたんだね」
台から降りたラムに笑いながら尋ねると、
「だって、チコリちゃんがマスコットなんだもん」
と、笑いながら答えてくれた。
当のチコリはというと、店先に小さな箱を持ってきてちょこんと座っていた。足をブラブラさせて無駄に可愛いので、皆から餌を与えられていた。
「ナターシャさん、打つのはこっちでやりますから、どんどん串を焼いていってください!」
「サラさんは冷やしたジョッキのスタンバイをお願いします!」
「フクちゃんは給仕をお願いね」
ラムがテキパキと指示を出す。
僕はというと案内くらいしかとりあえず出来なかったが、エールを注ぐという仕事も与えられた。
凍らせたジョッキを斜めにし、静かにエールを注いでいく。特に泡をたてる必要はないので、ジョッキの縁ギリギリまで注ぐ。
それらは次から次へとフクが運んでいく。今日はメイド服姿だが、いずれはラガーも醸したいし、オクトーバーフェストで有名な衣装『ディアンドル』を着せるのもいいかもしれない。
「追加の串が焼けてますよ!」
ナターシャも焼きながらドンドンコツを掴んでいっているようだ。
この世界にはねぎまがなかったので、物珍しさから客達の視線が集まっていた。ちなみに本来のねぎまはネギとマグロの鍋の事なんだけど、いつしか肉の間(あいだ=ま)にネギを挟んだ物を指すようになってしまいました。
そしてようやく新エールの登場だ。
「それではエールも隅々まで渡ったようですね」
皆、早く飲みたくてウズウズしているのが分かる。
「新しい酒にカンパーイ!」
ラムが叫ぶと、高々にジョッキを掲げて、一斉に口をつける。
笑顔と共に琥珀色のエールは瞬く間に飲まれ、なくなっていく。
「「「「「ぷパァ!」」」」」
くうーっ!
「「「「「おかわり!!」」」」」
アンバーに酒文化が戻ってきた瞬間だった。
次回から数話、主人公以外のキャラクターに焦点をあてた話を数話掲載予定です。




