159話
相変わらず混沌としている店内。
カウンター内には焼き場にナターシャ、板場に耕ちゃん、そして助手としてバニラが入っている。洗い物は給仕メンバーがその都度洗っているが、サラが抜けているので少しだけ混雑していた。
「あ、ケンジ、どこ行ってたのよ。お願いがあって探してたんだから」
ラムが赤い顔をしながら困っている風に寄って来た。
「悪い悪い。すぐに洗い物を洗うから」
「それもあるけど違うのよ」
奥のカウンターを小さく指差す。
何やら三人組がハイテンションになっている。
「祭りで興奮しちゃってるの?」
「違うわよ! 例のレアアイテムを女の子達に見せて喜んでるのよ。質が悪いったらありゃしないわ。どうにかしてよ!」
トラブルを防ぐのも俺の役目だ。
しかし、腕っぷしで負けると分かる相手、しかも酔っぱらいに注意するってのは……はあぁ、ケガしないといいけど。
近付いてみると、彼らが持っているのは洋物のポルノだ。この、安臭い紙質とボケた色合いの印刷が妙に艶めかしい。
「お客さん達盛り上がってますね。何かいい事でもあったんですか?」
空いた食器を下げつつ話しかけると、件のレアアイテムを見せてきた。
「マスター、トダ村のダンジョンは知ってるだろ? そこから出てきたのがこの上質な紙でできた、本物みたいな姿絵だ。凄いだろ、美しい女がこんな所まで」
ネット、スマホ時代に生きていると、この程度ではリピドーが開放されない。
この世界の人達は今、昭和の小学生が神社の境内や橋の下で、妙にふやけたエロ本を見つけてしまった時と同じ心境なのだろう。
「おおっ、これは凄いですねぇ。これだけのレアアイテムだといくらぐらいで取引されるんですか?」
「マスターも好きもんだねぇ。そうだなぁ……これだと金貨一枚にはなるだろうよ」
「それはそれは。かなりの物ですね。ところで、祭りも最高潮でして、酔った方が押し寄せます。酒などこぼされない様に注意して下さいね。濡れたら大変だ」
それを聞いたお客さん達はハッとして、レアアイテムを袋の中にしまった。セクハラする楽しみよりも価値がなくなる方が痛いもんね。
しかし、俺ってマスターなの? ずーっと客だったから変な感じだな。
「ケンジ……凄いわね。あんなにセクハラしていたのにしまっちゃったわ。それで、忙しいのにカッコつけてんのは何なの?」
「俺の事、マスターだってよ」
「何だそんな事。ほら、突っ立てないで動いて動いて」
「そんな事か……まぁ、そうなんだけどさ」
「ちょっと、落ち込まないでよー。もう皆、ケンジの事はマスターだって思っていたわよ。頼りにしてるわよ……チュッ」
ウワッ、客でごった返す店内で口にキス?
『ヒューヒュー!』
あー、こっ恥ずかしい。
「むむむむむ!! ご主人様! 発情しちゃダメですニャーー!!!」
フクの言動で、クジラ祭りは更に盛り上がりを見せていく。