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魔汁キンミャー焼酎を異世界で  作者: 水野しん
第十章 魔王という名の
156/230

156話

 ちくわとささみが、クジラを捌いている耕ちゃんの周りをグルグルと飛んでいる。クジラはどんどん部位に分けられ、物によっては下処理が加えられている。


「クジラって美味しそうな肉なんですね」


 リリィが遠巻きに見ていて言うが、あっちのクジラと、肉の見た目は変わりないかも。


「美味しいから後で味見してみような」


「ん!」


 おお、いつの間にかチコリが足下にいた。

 口の周りに何かを付けたままだから拭いてやったが、何か生臭い。


「チコリってば、何を食べてきたんだ」


「ん」


 細長くて猫のイラストが描かれている物を俺に渡してきた……。


「これって猫のおやつじゃないか。誰からもらったんだ」


「ベニちゃんがくれたよ」


 ベニちゃん、何やってんのよ。て言うか、どこから手に入れたんだよ。猫界で流行っているとは言え……いや、飼い主さん達に流行っているとは言え、異世界の物だぞ。


「まさか、オハラさんか? とにかく、それは猫ちゃん用のおやつだからね」


「む?」


 首を傾げて眉間にシワを寄せるチコリ。


「代わりにこれをあげるから、猫ちゃんのおやつは食べないでね」


 うまい象をあげた。


「ん!」






 それから三十分。

 なんやかんやでくじら肉の試食の時間となりました。


 耕ちゃんが各部位の刺身にベーコン、さえずり()やスジ肉のおでん、赤身のステーキなどを試食会にしては多過ぎるほど作ってくれました。

 俺やラムにはお馴染みの料理なんだけど、クジラ違いだから見た目は一緒でも初めて見る人と同じ経験にはなるかな。王様を始め、皆も、この幻高級食材に異様な雰囲気を醸し出している。


「それでは、作ってくれた耕ちゃんに拍手!」


『パチパチパチパチパチパチ!!』

 照れる耕ちゃんも珍しい。


「これは……肉を生で食べるのか? むむ……」


「まぁ、食べてみて下さい。イシカワ(大将)さんがミスリルの包丁に魔法を付与しましたので、それで捌いた食材は食あたりになる事はありませんから」


 箸を持って、赤身の刺身を甘めの醤油につけて食べてみせる。ニンニクや生姜なんて薬味はいらないね。全く臭みはないし、肉の旨味がジワーっと出てきます。


「ゴクリ……よし、これにつけて食べるのだな……美味っ! 何だこのモチっとした食感は……陸の獣肉とはまた違った風味だが、噛むと溢れ出る旨味が凄いな」


 王様が感想を言うやいなや、ワッと箸が伸びてきた。


「ほらほら、猫ちゃんずは口の周りを拭いて……チコリもだし、ほら、ちくわとささみはこっちの皿に準備してるから、大皿に肉球を付けないで!」


「あー、僕を置いて行ったと思ったら、皆でくじら肉パーティーですかぁ」


「エリック、君は疲れててぐっすりだったぞ」


「そうですか……気を遣ってくれたんですね。それなら文句は言えないですね」


「エリックはクジラを食べた事があるのか?」


 エリックは器用に箸を使って刺身を食べた。


「大五郎さんに献上した事があるんですよ。えーと、むかーし昔の王様ですけど。ほら、絵本にあるでしょ……名前は違ったかな」


「その大五郎は俺の叔父だし、時間を超えて王をやっていたのも知ってるよ」


「何と、そうだったんですか。ふむふむ」


 考え込んだふりして色々と箸を伸ばしてるな。まぁ、美味しいから分かるんだけどさ。


「大五郎さんに献上した指輪ですが、今は貴方が持っている訳ですね。えーと、そこのイシカワさんにも譲りましたが、残りは……お転婆エルフ娘とストーカードワーフので四つですねぇ。ふふ、実は造ったのは五つなんですねぇ」


 伝説の鍛冶師はチャラいハイエルフですけど、随分含みのある言い方ですねぇ。


「五つ目は誰が持ってるんですか」


「んーとね、大五郎のお姉さんだね。んー、このさえずりっていうのはクニュクニュしてて美味いね」


 大五郎のお姉さんって……俺の母ちゃんじゃん。

 は? そんな指輪してたっけ?


「母ちゃんさんなら旦那さんにプレゼントしたって言ってたニャ。ケンジもおでん食べるニャ? 持ってきてやるぞー」


 だんごが言う。そういや、だんごは母ちゃんと何やらコソコソやってたな。そんな話もしてたのか。こちとら肉親なのに知らない事が多過ぎる。


「ん? エリックはどこ行った?」


 直前まで食いまくってたのに、探してもどこにもいない。


「ケンジさん、外、凄い事になってるよ」


「あー、いたいた。急に消えるから、指輪の謎もまた曖昧になるかと……え!」


「クジラ効果かなぁ、こんなに入れないよねぇ」


 いつもの列形成場所から、通りの向こうまで、最後尾が霞んで見えなくなるほど客が並んでいた。


「ケンジさん! クジラ祭りですかね?」


 サラが変身して、ちくわとささみを従えて準備オーケーになっていた。


「あはは……」


「ケンジ、これ食って頑張るニャ」


 向かいの店から出てきたベニちゃんがくれたのは、スティックタイプの猫おやつだった。

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