150話
皆が注目する中、余裕で笑顔のチコリと緊張の僕。
チコリが手を繋いできたので握り返すと、変身シークエンスは発動した。たまたまだよね?毎回チコリがいないと変身できないとか、足手まといなだけじゃないか。
『ボワン』
煙の中からこんにちは。
自分から見える範囲だと胸が白っぽくて腕は緑色っぽい。爪が鋭いのは格闘に有利か。
「プッ、プププ」
ラムが笑いを堪えてもがきだした。
そんなに変な姿なのか。
「僕は何に変身したんだ。見た感じは爬虫類ぽいけど」
「ご主人様にも尻尾が生えたのニャ。お揃いなのニャ」
やはり爬虫類か。ワニとかその辺だろうと思ったのだが。
「ケンジ……プッ……その頭、プププッ、なんでカツラなのよ」
「カツラ……?」
頭を触るといつもと違う感触。ツルツルの上に長めの髪が横方向にあるような?
「ハゲヅラ?」
「当たりー! 似合ってるわよ、トカゲ」
トカゲだと?
隣を見るとチコリも小さいトカゲ娘になっていた。トカゲのキグルミの喉元に穴があって、そこから顔を出すタイプな感じ。しかし、安っぽい作りではなく、皮膚の質感は本物みたいだった。
「て、事は?」
「トカゲのおっさんね」
「ご主人様、卵を産んでるニャ」
粘液と共に卵を産んでいる僕は、トカゲのおっさんに変身していた。懐かしいけど、懐かしいんですけどー。
チコリは見た目も可愛らしいし、本人が喜んでいるからいいけどさ、僕は何だかかっこ悪くなってしまったし。
産まれた卵はすぐに孵って命令を聞くトカゲになった。小さくても意思疎通はできるし、潜入で活躍しそうだ。
「これで変身の確認は完了だな。後はどんな能力が使えるのか、訓練しながら試してみましょう」
「皆の訓練ならだんごに任せて欲しいニャ。だんごも元は人間だけど猫人族に変化したから、その辺はバッチリなのニャ」
なかなか全体での訓練はできそうにないから、だんごに任せるのが一番いいかな。
「ふむ、魔王がどの様な敵なのか全く分からない今、攻め込んで来られた時の盾となるのはここにいる皆だ。よろしく頼むぞ」
エルディンガー二世は、これから各国の連携を構築しなければならないだろうし、そろそろ王都に戻るのだろうか。
瞳子の同僚として何かしらの工作をしてから、弟、賢輔も姿を見せていないし、まだ緊張感蛾漂う雰囲気はない。
「変身はここぞという時だけにしてね。それじゃあ、解散します」
自室に戻ったり、出かけたりと皆出て行き、居間に残ったのは僕とフクにセシル、そしてエリックだけとなった。
「ケンジさん、エリックが指輪について話すって言ってましたけど、これ起こします?」
エリックは気持ち良さそうに眠ったままだ。
「疲れているみたいだし、今はそっとしておこうよ」
「そうですか? この男にそんなに気を遣わなくてもいいのに」
セシルに存外に扱われるエリックの寝顔を見ていたら、何だか僕も眠くなってきた……。
「お昼寝するニャ?」
「うーん、ちょっとだけするか?」
「うニャ」
「コホン……それじゃ、私も寝ようかな」
空いているソファに三人で座って寝てしまった。
ここは地球の様で地球ではない。
西暦は同じでも文明の進み具合が全く違う。
高層の建物で空が失われ、わざわざ太陽光から有害な物を除いてライトから照らしていた。
生まれた時から機械と融合していて、脳の活性化を促し、錯覚を利用して色々な事を処理できる能力が備わっていた。
それは、目の前の空間にコンピューターの画面があるかの様に操作する事だった。
脳内だけの処理だと、それはもはやコンピューター。人間としての意味を為さないという事だから、わざわざ面倒な作業を残しているとの事だった。ちなみにここの人間同士だと錯覚も共有できるようである。
「それで? 移住先が自分達の宇宙では見つからないから、あの世界を乗っ取る事にしたのか。何故、俺が選ばれる。何の得がある。まるで分からないな」
「まぁ、そう言うな。ここの全ての人間で決めた事だ…………いや、一人欠けていたな。ほぼ総意なのだよ」
中身は違っても、クソ親父の顔で言われると胸糞悪いな。
生きる為に他の多数を犠牲にする。
自分がその立場だったらそうするかもな。そして、俺は今、否応なくその立場に立たされてしまった。それは、家族同士の戦いに発展している。
ただの飲ん兵衛のアニキに何ができるっていうんだ。
「今まではあの世界の文化レベルを調べていたが、一部の人間を除いては敵ではない事が分かった。武器も槍や剣、弓といった原始的な物だしな」
「厄介なのは魔法か?」
「魔法使いは結構いたが、妨げになるレベルは百人に満たない。敵になるのはお前の兄の様な転移者か転生者だな。奴らには特異な能力が備わるのが常だ」
俺もあの世界に転移したから、この能力を身につけたんだし。
「店長さん、面白いわねぇ。でも、蛮杯屋は可愛い女の子がいなくてダメね」
「そんな事を言ってもポリシーは曲げられないかなら。君だってそうだろう?」
私と彼は同族なのでした。
彼も男しか愛せないバンパイア。私も女の子しか愛せない。
「まぁね、でも、この辺には同じ趣味の人はいないわ」
「そうだ、昔作った性転換の薬があるんだが、それをロリに進呈しよう。なに、二十四時間が過ぎれば元に戻るから問題はない」
「相手によっては怒りそうよね」
「了解を得ればいいじゃないか」
「簡単に言ってくれるわね」
「まぁ、使わないなら処分すればいい」
店長はそう言って、紙に包まれた薬を渡すと厨房に消えていった。
そろそろ立ち飲みチコリに行ってもいい時間よね。
薬を手に、私は蛮杯屋を出た。
トダ村にダンジョンができてから、この街も人が多くなったらしいけど、それ以前にケンジの酒が人を呼んだのね。お酒って、そんなに美味しいものなのかしら。