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魔汁キンミャー焼酎を異世界で  作者: 水野しん
第十章 魔王という名の
141/230

141話

「で、どうすんの、これ」


「ラム、これって言うなよ。これでもお客様なんだからさ」


「瞳子お姉ちゃんみたいニャ」


「ラッテちゃん、それは言わない約束でしょー」


 仕方がないので担いで家に運ぶ事にする。ラムなんかはライバルが減ったり増えたり、とか呟いていたが、これはそんなんじゃないだろー。

 指輪の話は起きたら聞いてみたいし、とにかく放置はできないからな。


「男の客だったらどうしたのよー」

って、ラムが聞くから、

「店の裏に放置!」

って答えたら、ジト目を頂きましたよ。


「で、帰宅するとバッカスとルナとその弟が普通にいるんだ、これが。増築に次ぐ増築で変な旅館みたいになりそうだわ、全く」


 更にうちの母ちゃんも疲れている時はこっちに泊まるようになってきた。まぁ、あっちには弟もいなくなって、親父が一人いるだけだからな。


「はぁ、もう、疲れたわぁ……」


「疲れたところ悪いけど、トダ村ダンジョンのレアアイテムの事は知ってるわね?」


「知ってるよ。そういえば王様に相談するのをすっかり忘れてたわ。あのエルフのせいだよー」


「今日、少しだけブレスで燃やしてきたわよ……こんなのが出回ると困るし!」


 バシッとテーブルに叩きつけられたそれは、薄い本。

 よく見ると、ドラゴン同士が絡み合う、誰が読みたいんだ?という内容の同人誌だった。流石、変態の国の薄い本だ。


「うわ、奥付けに住所が載せてある。かなり古い同人誌なんだな」


「溢れ出るのは止まったみたいだけど、出回ったのを早くどうにかしないと、この辺一体はお酒とエッチの街になっちゃうわよ!」


 これは地味にダメージが……うぬぬ、奴らめ!

 多分、こんな事をするのは奴らだよな。侵略という名の嫌がらせ……。


「明日には対処しますので、これはルナに処分を頼んでいいかな」


「姉ちゃん、ちょっとそれ見ていいか」

「ダメに決まってるでしょ!」


「平和な事だ」


 バッカスの一言がルナに火をつける。


「何が平和なのよ!こ、こんなエッチな本が出回ったら……私達ドラゴンが色目で見られるでしょ!しかもこれ……凄く絵が上手だし……って、もー!ついつい見ちゃいそうになる悪魔の本よっ!」


 少女のポカポカ攻撃は和むな。シチュエーションは別にして。


「少し前から魔王の存在を感じるようになった。このような事くらいで騒いでいる場合ではないぞ」


「魔王!……やはり本当の事だったのですね」

 唐突にナターシャが会話に絡んできた。


「指輪をくれたエルフが……多分、ハイエルフだと思うんですが、教えてくれたんです。魔王がこの世界に生まれた事を」


「魔王って何ニャ?」

 フクが膝の上で足をバタバタさせながら聞いてくる。ちなみに、フクの腕の中にはちくわとささみがいて船を漕いでいる。


「魔王っていうのは魔族の王だな。この世界に魔族っているのか分からないけど、今回は人に敵意を持って宣戦布告してくるだろうな。しかし、それは異世界からの侵略者の手先として」


 急にシリアスムードになった我が家のリビングには、フクのねこねこ子守唄が優しく奏でられる。

 エルフや魔法使い、猫人族に猫と神にドラゴン、メンバーだけなら魔王も倒せそうな組み合わせなんだが、単なる立ち飲み屋の店員ですからねぇ。


「これも王様に報告だな。とりあえず今は風呂に入って寝るとしようか。リリィも疲れただろ?」

 あれからもリリィは店で働いてくれている。


「身体が憶えているのか、それほどでもないんですよ。でも、気にかけてくれてありがとうございます」


 今夜は寝酒に、大五郎んちで買ってきた純米大吟醸 愛莉洲(アイリス)を飲もう。華やかなりんごの香りに包まれて眠りにつきたい。






「今度は何て呼んだらいいんだ?」

 目の前にはリリィとは違う身体の奴がいる。


堺護(さかいまもる)、マモルと呼んでくれ」


「今回はオッサンなんだな。女は飽きたのか」


「今はこれが都合がいいだけだ。それより儀式の後、体調はどうだ」


「それが、前にも増して力が湧き出てくるし夜も眠くならないんだ。それに、ビームセイバーもパワーアップしたのか紅くなったし」


「そうか、何かあったら教えてくれ」


 今の俺なら誰にも負ける気はしないな。そう、姉貴にもな。

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