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魔汁キンミャー焼酎を異世界で  作者: 水野しん
第一章 酔えれば何でも良いわけじゃないのだ
14/230

14話

 何でも屋の棚に整然と並ぶ紙パックは、日本の大衆酒場でお馴染みの『キンミャー焼酎』1.8リットルパックだった。


「重っ」

 手に取るときっちり中身が入っている。


「お客さん、どうだい、新商品のキンミャー焼酎だ。最近できた新しい酒だよ。葡萄酒なんかより酒精が強いし、傷の手当にも使える聖なる水だよ。まぁ、人によっちゃぁ、スルスル飲めちゃうんで酔い潰れる事も多いらしくて、魔汁、なんて呼ばれちゃってるけどな。とにかく評判がいいんだよ」


「いや、意味分かんない。キンミャー焼酎が何でここにあるんだ」

 空きパックの発見から、オーパーツの情報を集めようとしていた矢先にこれだ。既に中身入りで売られているなんてオーパーツどころじゃない。


「オーナーが仕入れてんだけど、珍しい物が多くて売るのも楽しいんだ」

 そんなものかねぇ。


「このお酒、私が村を出る直前に売り始めていて、エルフは消毒薬として使っていますよ」

 消毒薬として使えるほどアルコール度は高くないんだけどなぁ。混ざり物がない分、そういった使い方もありなのか?

 そう思ってパッケージを手に取りなんとなく眺めると、そこには、

「60度…」

 お得に魔汁感が増している……異世界仕様かよ。

「これは買っていくしかないか……」

 こうなりゃあと欲しいのは割物の炭酸水だな。どうにかして手に入れないと。

 キンミャー異世界版は謎過ぎる物で怪しいが、そこにあるなら飲ん兵衛としては飲むしかない!そして、店でも使うに決まってるじゃないか!


「しかし……キンミャーって何なんだろうな……」





 店の前までくると、中学生位の女の子が中を覗いていた。ホットパンツの穴から長い尻尾がピョンと出ている。猫かな?

 チコリが動く尻尾にまっしぐらだ。つかまれてビックリしている。


「フニャ?」

 尻尾を握られ、頭の上の耳を伏せながら、女の子はこちらへ振り向いた。

「どつしたのかニャ?この子は尻尾が好きなのかニャ? クンクン…クンクン……やっぱりこの子から御主人様の匂いがするニャ。ふにゃー、懐かしのいい匂いだニャー…………でも、ご主人様と違うニャ」


「さっきから店の中を覗いてますけど、うちに何か御用ですか?」

 中からラムが出てきて言う。


「ここは何の店だニャ?」

 尻尾はチコリに掴まれたままだ。


「酒場ですよ。まだ開店前の工事中ですけど」


「そうニャのか…お酒を飲む店なのニャ……匂いがこもってるからここに御主人様がいるはずなんだけど」


「御主人様?どなたのことでしょう?」

 首を傾げるラム。


「むー。匂いが強くなったんだけど、どこかニャ、どこかニャー」

 女の子はキョロキョロしながら中を覗いている。


「ケンジさん、帰ってきて何ボーッと突っ立ってるんですか。早く買ってきた物を中に置いてくださいよ。皆で仕込まないといけないんですから」


「ラム店長怖っ。今すぐ持っていきますからそんなに怒らないでよ。可愛い顔が台無しだよ?」

 いそいそと荷物を店内へ入れようとしたその時だった。


「あ、御主人様!会いたかったのニャ〜!!」


 女の子が尻尾にチコリを付けたまま抱き付いてきた。

 ギュッとされてもぺったんぺったんですな。


「御主人様ってお前かーっ!買い出し先で何してんのよ!!奴隷は違法なんだから捕まるわよっ!」


「いてっ」

 左頬にラムビンタをくらいよろめく。


「ペロペロ」

 女の子は当然の様に赤くなったところを舐めてきた。

「ご主人様を叩かないで下さいニャ」


「ぐぬぬぬ!ニヤニヤして、このロリコンがーっ!異世界だと思って捕まらないからってぺったんこハーレムかっ!酔って私の胸を何度も揉んだくせにぃいいい!!」

 何か問題発言をしているんですが……ラムの胸を?マジで?


「何かの思い違いじゃないの? 絶対勘違いしてるって! 幼女二人に抱き付かれただけでロリコンじゃないって……痛い痛い!」

 ビンタの次はポカポカ攻撃だ。普通はこれ、痛くない様に叩くんだぞ?


「御主人様をいじめるニャ!」


「ちょ、君はさっきから御主人様ってナニ言ってんの?それがこのお姉さんが怒るきっかけだったんだから」


「んー?クンクン、クンクン。やっぱり御主人様ニャ。匂いで分かるニャ。むむ?少しだけ老けたかニャ?」

 ケモ耳が可愛らしくピクピク動いていて、思わず頭をなでていた。

「これだニャぁ〜。御主人様はやっぱりテクニシャンなのニャぁ〜」

 そう言いながら腕を甘咬みしてくるその仕草に、脳のニューロンがビビっと繋がった感じがした。何故か懐かしい…そして口をついて出る。


「ハナ…っぽい」


「御主人様から久しぶりに名前を呼んでもらえたニャん。ゴロゴロ…」


「ほえっ!?」


「ご主人様、私はハナだよ?」


「え?ハナ?夏だというのに膝の上に乗ってきてたハナ?」


「爪を立てないで乗るのが難しかったニャよ」


 抱きついている女の子は、亡くなった愛猫なのだと言うのだった。

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