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魔汁キンミャー焼酎を異世界で  作者: 水野しん
第十章 魔王という名の
138/230

138話

「そういう訳だから中に入れて頂戴。得体が知れない物でもいいの!」


 薄いイエローのチンクエチェントちゃんから上半身を出して、犬耳を付けている(本人が付け耳、付け尻尾だと言っていた)ニコルが喚くシーンは映画でも観ているようだった。騎士の甲冑も質感が凄いし、いたるところにある擦れたキズも使い込み感がある。


「得体の知れないって……この自動車ってのは馬の代わりにエンジンで走らせてる馬車みたいなものでしょうが、もう」


「エンジンて何?」

 座り直したニコルは首を傾げて反芻する。


「あーもう!燃える燃料を爆発させて、その力で軸を回転させて車輪を回して走るのよ!自動車のはタイヤだけれども!」


「そっかー、火魔法で同じのが造れそうね。フムフム……」


 フムフムって、それだけだと繊細な動きができる乗り物なんてまだまだ無理だよ。マルクスさんも草葉の陰で泣くわ。


「ここに停めて。それじゃ、城の中へ入りましょうか」




 紅い絨毯が敷かれた廊下の先にそれはある。

 でっかい王様の肖像画。


「あらぁー、ホントにあの人だ。ふぇえー、王様なんだねぇ……って、アタシってかなり無礼者!?」


 ふふ、慌ててる慌ててる。まあ、エルちゃんは寛大で優しい王様だからケンジ達ともああしてやっていってる訳だから、このくらいで起こったりするはずはないのよねぇ。でも、まぁ、少しは偉い人って思ってくれればいいかな。


「て、事はあの話も本当の事なんだ……葉山一族がこの世界を侵略しているなんて話は嘘なんだ……単に行き来しているだけ。何だ、そうなんだ」


 瞳子は私の方に振り向いてハグしてきた。


「な、何?」


「まだピューリッツァー賞は諦めなくてもいいのが分かってよかったー!」

 胸ポケットから何かを出して顔の前でカシャカシャ音を立てている。むぅ、気になる。


「ニコルさんの写真も撮らせてね」

 カシャ。


「わわっ」

 カシャ。


「あはは、ほら、こんな感じに記録されるのよ」


 小さな道具にいるのは私?

 自分の顔なんてちゃんと見た事がないからなぁ。


「あー、ブラックドラゴンも記録したのね。こいつ、ずる賢いからキライなのよね」

 あー、でも、二匹いるんだ。ルナの他にまだ一緒にいるなんて、なるべくなら会いたくないわね。会う度に胸をつかんでくるし。


「え!会った事があるんですか!会えます?ねえ、会えますか!」


「どうかなぁ、私は会いたくないけど……」


「あ、やっぱり食べられちゃうんです?」


「自我が出る前なら何でも食べちゃうけど、そこに記録されてるドラゴンは自我があるから大丈夫よ。だけど、人にやたらとあたるし……要するにワガママなのよね。ドラゴン一般にそうなの」


 やはり上から目線になるからなのか、バカな個体でも人より魔法を使えるからなのか、特に私達魔法使いには意地悪してくるから、小さい頃の憧れは思いっきり砕かれて、成人する頃にはドラゴンとなんて会いたくもなくなるし。


「ふーん、そうなんですかぁ……それで、これからどうするですか。アタシは王様と認めて、色々と話も納得しましたし……」


「ちんくと一緒にアンバーに戻るよ。元々ワタシはアンバーの町長選出までに仕事があるからね」






 うーん、どうしましょう。

 チコリちゃんが連れて来たのはあからさまにエルフです。露天商と自称していますが、指先を見るに鍛冶をやっている感じです。


「これはこれは美味しそうな串焼きですね。ご主人、私にも頂けませんかねぇ」


「ん!んん!」


 この二人は来ていきなり串焼きにかぶりつきですか。支払いは……私なんでしょうね。師匠と色々お話をしたかったのですが、今日はダメみたいです。


「師匠、二人の分は私が支払いますので焼いて頂けますか」


「いいのか?まぁ、雨でいつものお客さん達も来ないみたいだしな。余ってももったいない、美味しく焼かせてもらうよ」


 師匠は次々と串を焼いては二人の前に出していきますが、二人もそれを次々と食べていきます。


「わ、私にも下さい!」


 師匠が言うには、豚をつぶしてから数時間のものを仕入れているのだそうです。なので新鮮、肉の味が濃いし臭みが全くないのです。ああ至福です。


「あ、そうだ、君の指輪は回収しておくよ」


 露天商さんが言うと、左手の指輪が消えてしまいました。


「えっ……」


「そして、これをご主人に」


 あの輝きはオリハルコン!

 ケンジさんがはめている物とはデザインが違うようですが、紛れもなくオリハルコンの指輪です。


「一体、どういう事なのかな?」


「その指輪は人々に力と結び付きを与えます。美味しい串焼きをご馳走になったお礼ですよ」


「俺には小さくないか?ほら、はまら……ん?はまったな。んん?もう一つ指輪が出てきたぞ。どういった仕掛けだ、これ」


 もちろん、指輪は私が頂きました。

 それと同時に師匠の料理の知識が頭に入り込んできたのです。

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