136話
「やっとだぜ……俺のコレクション」
このダンジョンは今までと違って何か変だ。異世界とワームホールで繋がるなんて聞いたことがない。何者かの意図を感じる。
あれから予定外にエロ本が多く、見分けるのに時間がかかり食料も尽きたのでミミックの舌で食い繋いでようやく探し当てたのだ。
「日本酒を造ることになってから気になっていたんだ。これが誰かの手に渡ったら造った美味い酒をダメにしてしまう輩が現れる。わかめ酒のグラビア…こいつだけは世に出せん。この世界にわかめ酒という行為を広めてはダメだ…」
俺は本を懐にしまい、早々とダンジョンから脱出を図るのだった。
初日は酒に串焼き全て売り切れという結果で万々歳だった。
ダンジョンのレアアイテム扱いになったエロ本のバラけた物が、冒険者ギルドを筆頭に各商店や個人が、オークションの様に値を釣り上げて買い取りをした為に高騰しまくり、一時ダンジョンは閉鎖されてしまった。
丁度よくアンバーに王様が来ているようなので、伺いを立てているみたいだけど、どうオチが付くのかねぇ、これ。
屋台はそのままにしていいらしいので、売り上げからアイリス達に日当を渡す。何だかんだ言っても給料に子供みたいにはしゃぐ三人は、早速親に見せに帰っていった。いい娘達だなぁ。
一人取り残された僕はエロ本のバラけた物を見せてもらったりして、一体何年前のだよ!みたいな物から所持していると逮捕されちゃう物まであったりと、トダ村が日本酒で売り出そうとしている時に、エロで有名になってしまうんだろうなぁ、と思ったら、何だかとっても悲しくなってしまい、大五郎さんちに寄って日本酒を買って飲んだくれないとやってられないよね、もう。トダ村やアンバーの人達も猿みたいにならないといいけど……。
とにかく、エロ村とかロリ村とか言われないように祈るしかない。
「うわぁ、マジでお城じゃない!」
エルちゃんに頼まれたから連れて来たのはいいけど、王様って認めないとかどうなのよ。あんなに威厳がある人はいないでしょうに。
「ほら、瞳子だっけ?上ばかり見ているとお上りさんに見られるよ。こっち来て、あの城に連れて行くから」
言ってもポカンと口を開けたままの瞳子は、道すがらの人達からジロジロ見られていた。
城まで行くのにも転移魔法を使ってもよかったんだけど、王都の景色を見せるのも頼まれているので、腕を掴みながら歩いている。
「うわっ!何あれ!ワニ?トカゲ?」
「リザードマンよ」
「え?て事はラムの店にいた猫耳達も…」
「本物の耳だけど」
軽く聞いた話では、瞳子はこことは異なる世界からやって来たらしい。見た目で判断するならばラムも同じなんだろう。
転移魔法を研究するにあたっては、この世界とは別に世界があるってのは考えとして普通だから、さほど驚きはしなかったけど、こうして異世界人に会えると探究心が出てくるわね。
「瞳子のいた世界はどんな世界なの?」
「遠くの人と話せる道具を皆が持っていて、それは暇つぶしに最適だから…んーと、これね。魔法はないけど科学があるから、街なんかももっと明るいわよ。あと自動車っていう乗り物は運転していて気持ちが晴れるわ!」
「ところで、それは何」
「あれ!!アタシのチンクエチェント!えっえっ」
「硬くて冷たい…ちん…」
「チンクエチェントね。これが自動車って言う乗り物よ……キーは持ってるから、ほら、乗れるわよ。エンジンかけちゃう!」
「わっ!何の匂い?それに震えてる…私も乗っていいの?」
瞳子の世界には魔法がないと言っていたはずなのに、こんなのを呼び寄せちゃうなんて…。
「椅子があるのね……」
「乗ったらドアを閉めて」
見様見真似でドアを閉めると自動車は動き出した。
透明の板は汚れもなく透き通っていて、景色もよく見える。
「ガラスはあったわよね?」
「これがガラスなの?こんなに綺麗なガラスは初めて見た…それに前が明るいけど…」
光魔法で照らし出したかの様に明るい。これがカガク?
「それじゃあ、お城へレッツゴー!」
瞳子は水を得た魚の様に丸い物を握っている。
「あれ、ラジオが入るのね…?」
『ザザ…♪〜』
「流石にタイムスリップはしないわー。デロリアンじゃないしー」
「瞳子、何を言ってるのか分かんないんたけど」
「ん?んー、話しても分からない事だから気にしないで。これ、ここから聴こえる音楽の話なんだけどね」
「変わった演奏だね…瞳子の世界の音楽……」
「あー、車にまつわる音楽特集なのかぁ。あ、ああーっ!キター!大野さん!」
軽快な音楽が流れ出したと思ったら、急に速度が速まった。馬でもこんなには速くないよ……。っ!今、壁を走ったよね!ね?ね?
うう、少しチビったかも……。
湿った不快さが出てきた頃、自動車は城門を望む所まで来ていた。