135話
悪呼ばわりされちゃいましたが、そもそも悪とは何なのでしょうね。
フフッ、何となくこの人の考えている事は分かるけど、分かった上でワザと知らないフリをしてみるのも、ある意味では悪い事ですよねぇ。
「スクープですか?このお店も街も、周りは私の友達ばかりです。そんな人達に迷惑をかけたら、私はアナタを許しませんよ?」
異世界に来ている事が既にスクープでしょうに。それに気付けないんじゃ、ダメダメだね。
「アタシのスタンスは迷惑をかけない取材です!」
「まぁ、いいわ。それじゃあ聞かせてもらえるかしら、私達が悪人ってどういう事なのか。そりゃ、異世界から来て商売しているけど、ぼったくっているワケでもないし、不平等な取り引きもした事はないわよ」
「リリィとかいう別の世界から来た人が、貴方達はこの世界を支配しようとしているって言ってたわよ。証拠の動画もあっちにあるし、言い逃れはできないと思うけど」
何やら自信満々で言う瞳子さんですけど、証拠の動画って何の事だろう。
「動画って何よ。それに、リリィはうちに戻ってきたけど、かなりの期間、何かに取り憑かれて操られていたみたいだったわよ。その間の記憶もなかったし」
「リリィさん、いるんですか。後で会わせて下さいね。それで、動画の事ですけど、ドラゴンが住宅を破壊しているものがありました。破壊行為は侵略じゃないんですか!」
どこかの政党党首みたいな口ぶりで嫌な感じだわね。
「あのドラゴンはルナっていってバッカスって男にベタ惚れな訳。でも、バッカスは酒の神なの。人の身体に入り込まないと好きなお酒が飲めないって事で、精神的に融合しやすい身体を探していたら、この国の王子がそうだったので無理矢理入り込んだのね。そこから王様とバッカス側との追走劇よ。ルナは追う者全て敵みたいな感じだったからあんな事になったのよ。亡くなってしまった町長には不幸な事だったけど、あの後不正が沢山出てきたって言ってたから、まぁ、裁かれるのが早くなっただけだったけど。アナタが観たのはその動画なのね?」
「ラムさんがそう言っても、ホントかどうか分からないじゃないですか。嘘を言っていてもアタシには見抜けません」
正論ではあるけど、イチイチ面倒くさい女だわね。
「分かりました、それではこちらへ来て下さい」
店の奥側に瞳子を連れて行く。今日は裏手に置けないほどにビールの樽が運ばれてきていて、少し動きづらいわね。
「店主、今日は早くから邪魔しているぞ。何やら新しいビールができたと聞いたのでな」
流石は酒好き。
「毎度ありがとうございます。ところで、ドラゴンが町長の屋敷を襲った件は…」
「それは町長の汚職と相殺だな。あのドラゴンは罪に問われんが、どうかしたのか?」
「ね?分かったかしら」
「店が開く前から飲んでる様なおじさんに言われても、何も納得できる要素がありませんけど!」
瞳子は馬鹿だなー。
「口が悪い娘だな。新しい店員か?」
「すみません、来たばかりで何も知らないので…」
「エルディンガー二世と申す。して、娘さんの名前は?」
「エルディンガー二世って、何だか大層なお名前ですね。アタシは羽田瞳子っていいます。新聞記者をやってます」
「チョコー!ちょっと来てー」
「何ニャー?」
野良猫から異世界転移の影響で人化した野良ちゃんずの一人、チョコをちょこっと呼び出してみる。そこ、ケンジの影響が凄いとか言わない。
「チョコはこの人が誰だか知ってる?」
「もちろんですニャ!このおじさんはこの国の王様ですニャ。料理を持っていくと撫でてくれるニャよ?」
王様はチョコの頭を撫でている。この人も猫派らしかった。
「あまりにもフレンドリーで最近は護衛の騎士すらついてこなくなったけど、正真正銘の王様です。王様が飲みに来るんですよ、ここに、普通に!」
「えー、王様って言われても」
「それではニコルに王都まで連れて行ってもらうとしよう。何、いつも美味い酒を飲ませてもらってる礼だ。行って帰るだけだからな」
王様はむんずと瞳子の腕を取り、店の外へと出ていった。チョコはカウンターの上に残された銀貨をレジに入れ、テキパキと食器を片付けている。
「サラ、ちょっといい?」
アタシはサラを呼び、瞳子の仕事着を用意させる。帰ってくるのが楽しみだわ。




