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魔汁キンミャー焼酎を異世界で  作者: 水野しん
第九章 暴かれるヒミツ
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131話

『ガラガラガラ』


「ここって飲み屋さんなのかしら?」

「お肉の香りがするニャ」


「ほわっ!シャノンじゃないか。な、ななな何で!」

 入ってきたのはラッテを連れたシャノンだった。


「ケンジさんが私を放ってどこかへ行くからじゃないですか。ついていった方が面白そうですし。近くにいた子に聞いたら連れて行ってくれると言うので来ちゃいましたよ」

 あー、野良ちゃんずは異世界転移が世の(ことわり)に反しているなんて知らないもんなぁ。人数少な目でも、長い目で見たら宇宙崩壊とかありそうなんだけど…。

 それに、一度転移すると何らかの力が授かるから厄介なんだよな。きっとシャノンも力を授かったに違いない。


「おぉ、ここも串焼きのお店なのニャ。おぉ、ナターシャお姉ちゃんもいます」

 ラッテは呑気なもんだ。


「一体ここはどこなのかしら。魔法陣に乗ったら眼鏡のオジサンがいる部屋出たけど。外は凄いスピードで箱か走ってる割りに誰も歩いていないし…」


 店内では僕がカウンター前に立っていて、やきとんを焼いている大将はカウンターの向こう側。潰れた女性がカウンターの端で突っ伏し、隣には死んだはずの弟が生ビールのジョッキを持ち、入口からシャノンとラッテが入ってきたところなのだ。


「おい、女。話の腰を折るな」


「どなたでしょう?知らない人から女呼ばわりされるいわれはないのですが」


「てか、賢輔、お前死んだはずだろ!ピンピンしてんじゃねーか!騙したな」


「わぁ、見た事のない肉が焼けてるニャー。一本、一本欲しいですニャ」


「師匠…」

「う、うむ、後に隠れてなさい」


「兄ちゃん何で来るかなぁ。ここで会う予定じゃないんだよ。また計画の練り直しだ。怒られるだろうなぁ……それじゃ、またね」

 賢輔の頭上に魔法陣が展開する。


「ちょ、待てって、おい!」

 弟の賢輔は転移魔法で何処かへ去ってしまった。突っ伏した女を残して……。


「はぁ…数分の間に色々あり過ぎてどっと疲れたわ。こりゃ、飲むしか無いよね。大将!生ください!シャノンもとりあえず座ったら?ナターシャもここに座って。ラッテはヒザの上に乗りなさい。全く、ラッテも関係者以外をこっちに連れて来ちゃダメだよー」


 バイトの子からジョッキ受け取り、乾杯もせずに一気に流し込む。ぷはぁ!くぅ!


「ケンジさん、飲んでいないで説明してくれませんか」

 シャノンは僕の腕を掴みながら少し涙目になってきていた。


「立ち飲みチコリの奥にある魔法陣に乗ると、信じられないだろうけど別の世界に転移される。ここはシャノンの世界とは違う世界なんだよ。そして、僕が生まれ育った世界でもあるんだ」


「そういえばお店の人、ザシャとルナの結婚式の時に料理をしていたわね。そう、ケンジさんもお店の人も別の世界の人だったんだ。珍しい顔立ちだと思っていたのよね」

 そんなに近くでジックリと見ないでおくれ。吐息がかかりますから。


「連れてきちゃって怒ってるかニャ?」

 ラッテが下から見上げてくる。


「起こってないけど次からは気を付けようね。危険な事に巻き込んじゃうといけないから」


「にひひ」


「転移した以上、シャノンも何かしらの魔法や力が使えるようになると思う。その時はなるべく冷静に対処してほしい。ちなみに僕の場合は物の召喚ができるようになったし、ラッテは猫だったのが人化できるようになったんだけどね」

 猫っ毛の三毛頭を撫でながら、さり気なく頼んでいた生ビールのお代わりを飲む。


「え、何それ怖い……」


「怖い事はないと思うよ。そんな大したことのない力だと思うから」


 ラッテがやきとんをせがむので焼いてもらったりして、場が落ち着いてきたところでナターシャに話しかける。

「それで、用事は済んだのかい」


「はい、大体は」


「立ち飲みチコリの焼き場はバニラに任せて、平日は大将の店で修行してみるかい?」

 場の空気で何となく読めたので、それとなく話題を振ってみる。


 ナターシャは僕の目を見た後に大将に振り返る。


「ナターシャ目当てにオヤジ共が殺到しそうだな。俺は女だからって優しくしないぞ。それでもよければ月曜日からでも来たらいい」

 大将の顔が赤いのは炭の熱だけではないかもね。ナターシャの目が恋する乙女になってるし。


「ナターシャをよろしく。それで大将、この潰れてる女性は一体何なの?」


「多分、俺の魔法を嗅ぎ回っていた人間なんじゃないかな」

 だらしなくカウンターで寝ている姿を見ると、色々とお疲れ様って声をかけたくなるけど、この人には賢輔の事を聞かなければならない。


「弟は何の為に一緒にいたんだろう」

 寝ているところを悪いけど肩を揺すってみる。


「うーん?なにぃ?」

 半目のボーッとした表情でこっちを見るが、自体を把握しているとは思えない。完全なる寝ぼけモードだ。


「酔って寝ていましたけど大丈夫ですか?」


「ふぇっ?」


「大将、タクシー頼んでもいい?今日は騒がせちゃってごめんなさい。この人を送るついでに帰ります。そうだ、タクシーに乗るから、ラッテは猫に戻ってもらえるかな」

 これで一台で大丈夫だ。


「ああー、すみません。アタシ寝ちゃってましたか…。ありぇ?真壁は?連れの後輩がいないんですけど」

 真壁って名乗っていたのか。奴が好きな少女漫画に出てくるキャラから名前をとったのがバレバレだ。

 しかし、大掛かりな戦闘になる訳でもなく、ちょこちょこと仕掛けてくるのは何なんだ。世界の支配とか言ってるけど、僕らへの嫌がらせにしかなっていないし。

 奴らの考える事は分からん。

 タクシーも来たし、疲れたから実家に泊まって明日戻ろう。






「それで逃げ帰ったの。瞳子という女にしたお膳立てが全部無駄になったわね。とにかく、葉山一族への作戦は白紙に戻すわ。一時撤退ね」


「すまん…まさか兄ちゃんが来るとは思ってもみなかったから」


 奴らを足止めしておかないといちいち邪魔をされかねないのに、ツメが甘いというか何というか。まだ全てが悪に染まり切っていない状態ね。時間がかかるのがもどかしいわ。


「次はトダ村のダンジョンを活性化させて、モンスターを溢れさせる作戦に移りましょう。それには貴方のビームセイバーのエネルギーが必要よ」


 あの訳の分からない法則を無視したエネルギーが必要になる。

 私達の世界はケンジ達の世界よりずっと進んだ文明があるのに、葉山一族だけはどの世界の法則も無視して何かをやっていて、色んな世界に影響を与えている。それを自覚していないのが恐ろしい。この世界も滅ぶ前に私達の世界が飲み込むしかないのよ。

 さて、この身体も大分動きにくくなってきたし、そろそろ別の身体に入り込む事にしましょう。






「くそっ、ここにもないのか!」


 十六階層を隅々まで調べた結果、隠した物はここにもなかった。焦るな俺……焦ったら見落としてしまうかもしれん。そうなったらこの世界は終わりだ。

 タオルで全身の汗を拭った。


 よし、この階段で十七階層だな。

 螺旋階段か、歩きにくいわ。


 十六階層で刀が手に入ったので、今まで使っていたアックスを宝箱に捨ててきた。不思議なもので、ただのアックスがレア物のアックスになるんだからな。次の奴もハズレを引かされることはない。


「暑いな……地面が砂になってきた」


 どうやら砂漠階層らしい。

 砂に足を取られて体力が消耗していくが、途中にオアシスがあったので助かった。


「造りかけの日本酒、大丈夫かな……」

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