126話
「また会ったわね」
「うわあぁあっ!」
『ギャギャギャッ』
ビックリして思わずアクセルを踏んでしまった。
「何で貴女が座ってんのよ!」
爆走中なのに、助手席にあの女が座っているってどーゆー事なのっ!
「わたしの事はリリィって呼んで頂戴。それと、ここへは転移魔法で来ました。ところで、どうだったの?葉山賢史郎に会った印象は」
「ま、魔法ね…全く、驚かせるんじゃないわよ。こっちはストレス発散でドライブしてるってのに……葉山さんは悪い人には見えなかったわね。釣りが大好きなオジサン。でも、何かを隠してるのは分かったわ。それが貴女の言う事なのかはまだ分からないけど」
葉山さんはアタシを巻き込みたくないって感じがするのよね。だから放っておいてくれ、みたいな態度をとったんだと思うワケ。
世界を支配してやろうとか狂気を持った眼はしていなかったと思うけどなぁ。でも、葉山一族は彼だけじゃない。他の人にも会ってみたいんだけど。
「賢史郎はね、いうなれば隠れ蓑。葉山一族でも異世界に興味がない人間もいるのよ。彼と娘はやりたい事をやってるしね。でも、異世界に行ける能力はあるワケ。分かるかしらぁ?この世界に私みたいに別の世界から来られる人間が沢山いるって事を。そして、文明に大きく干渉できるって事を。例えばそうねぇ、織田信長が本能寺で死ななかったら?」
「そんなこと言われても、歴史にもしもはないのよ…」
「あらぁ、そんな事ないわよ。葉山一族は、その中に時間さえ超えて色んな世界に行ける人間もいるわよ」
「そんな…!」
「今、私達が助けようとしている世界は、既に過去への干渉が認められたわ。葉山の血が一つの国の王族に受け継がれ、世界に広がっていく。いずれは血の作用で星の住人大勢で異世界へ侵略しに行くでしょうねぇ。そして奴らの都合のいいように変革され、また他の世界へ渡って行く……長い事これの繰り返しよ」
「その話が本当かどうかなんて、異世界に連れて行ってもらわなくちゃ確かめられないじゃない。裏を取らなきゃ新聞には載せられないのよ」
既に隣の市まで来ていた。
ここまで来たら駅前の酒屋に寄って行こうかな、なんて、緊迫した車内とは裏腹に思ったりして。
「まぁ、その内分かるわ」
「もう!いなくなる時も急にかよ!」
スピードを下げつつ、道なりに真っ直ぐ走り、駅に突き当たったら右に曲がり、品揃えのいい酒屋で日本酒一升瓶を三本買ったわ 。支局に飛ばされたんだから、美味しい日本酒くらい飲まなきゃやってられないわよ。後はキンミャー焼酎も一升瓶で買ったわ。割り物はパイサワーね。久しぶりに青りんごなんてのを買っちゃったわ。
愛車を駐めて、支局のドアの鍵を開けようとしたら開いていた。
「真壁ー、いるのー?」
「あ、せんぱーい、帰ってきましたね。今日こそ仕事終わりに飲みに行きませんかー?」
コノヤロー、もう帰る事を考えてんのか!
「あのねぇ、真壁。アンタは仕事してからそういう事を言いなさいよ。使えないインタビュー動画とか?そんなの時間の無駄なのよ!あのオッサン、釣りが上手いだけじゃない!」
整った顔なんだけど何なんだろう、生理的にムリなのよね。
「そんなに怒らないで、魔法を使うやきとん屋さんに行ってみません?ドラゴンといえば剣と魔法の世界って感じでしょ?」
涼しい顔で言いやがる。くぅーっ、ストレス発散した意味がなくなったわ。
「真壁、そんな情報どこから仕入れてきたのよ」
「こう見えて地元のダチは多いんですよ」
「くっ……分かったわよ、魔法使いのやきとん屋さんね。どうせマジック好きの店主がいるとかそんなんでしょうけど」
店の口開け時間までにはまだまだ余裕があるから、それまでに雑務もこなしておかなくちゃ。
「あれ?真壁ー……どこ行った!」
求人かぁ…。
トダ村はアイリス以外に女の子はいるのかな。冒険者を引き寄せるのは、どうしても女の子になっちゃうのよねぇ。
「で、トダ村に来てみた訳だが」
大五郎さんちが見えたと思ったら、ダダダダッとアイリスが走ってきたし。
「ケンジさん!今日からお店ですかっ?」
「ははは、まだ屋台もできてないし。今日はアイリス以外に働いてくれる人を探しに来たんだよ」
「もしかして女の子ですか?」
うっ、そんな目で見ないでください。
「何で目を逸らすんですかー?」
「アイリスがイジメるから…です」
「それじゃ、働いてくれそうな娘のいる家に行ってみましょう」
腕を掴まれてグイグイ引っ張られながら歩いていく。ふえぇ、コワイー。
しばらくして大きな家の前に着いた。
「村長さんの家です。娘さんがいますから頼んでみましょう。こんにちはー」
いつの間にか物怖じしない娘になってるし。
「あ、アイリスじゃない。どうしたの?それに…隣のおじさんはどなた?」
奥から十五、六の娘さんが出てきた。
「ダンジョンができたでしょ?屋台も沢山出てるの知ってた?今度、このケンジさんがお店を出すんだけど人手が足りないの。シャノン、一緒に働かない?」
「ふーん、ケンジさんていうのか…それで何のお店なの?」
アイリスがシャノンと呼んだ村長の娘さんは、細めのパンツに短めのワンピースを着ている。この世界にしてはとてもオシャレだ。
「シャノンさん、初めまして。アンバーの立ち飲み屋で働いているケンジです」
「そう、あの立ち飲み屋さんなのね。日本酒を造るようになって、この村も潤うようになったのよ。ありがとうございます。ダイゴロウさんの米も意味を成したから、前みたいにアイリスと会うのも堂々とできるし、ね?」
「週末の三日間限定営業の予定なので、昼から夜の早い時間までやりたいなと思っているんです」
「あれかしら、メイド服というも物は着られるのかしら」
「ええ、お望みとあれば」
「やった!それじゃあ一緒に働けるんだね」
二人は嬉しそうに抱き合ってキャッキャ言ってる。
「後一人いると助かるんだけどなぁ」