124話
「なるほど…葉山家は現在、父親が家にいる事が多いのね。写真で見ると眼鏡の冴えないどこにでもいそうなオジサンね」
何の仕事をしているのかしら…真壁のヤツ、きちんと調べてないんだから。
しかし、普通の家よね。これといって特徴もないし。
「ん、親戚が同じ市内にいるわね……郊外の山麓にまとまってる。本家やら分家やら、そんな感じなのかしら」
机の上の冷めたコーヒーを口にしつつ、ラップトップの画面を見ている。
「このインタビュー動画、何かおかしいわね……もう一度最初から…………やっぱり違和感が」
何だろう、質問も受け応えも変な事は話していないんだけど…。
『バタン』
「コンビニでおやつ買ってきましたー。瞳子さんも食べるでしょ?」
「……っこの!」
「あれぇ?ははっ、あのオヤジさん凄いや」
「何が凄いのよ」
「これ撮ってる時は気付かなかったけど、瞬きがモールス信号になってますよねー。この件から手を引けだって。何だか怖いなー」
「え?……ホントに?」
違和感の正体を見破るとは…真壁ぇ、凄いわね!…今日の所は許してやるわ。
「コーンポタージュ味あるぅ?」
久しく見たお菓子を手に取って食べながら考察してみる。
現状、私達はヤバいネタに食いついている。それはさっき分かった葉山家からの警告で分かる。けれど、このネタを調べたらマズイのは葉山家であって、その為に…まさか……アタシ達が殺されるなんて事には……。
「葉山のオヤジさんてプロの釣り師って知ってました?」
「え?そんな話、動画に出てきてないわよ」
「カメラ回してる時は聞いてないですもん」
何だそれ、真壁。コノヤロー、やっぱり許さん!今日は残業をきっちりやってもらわなくちゃ。
「テレビにも結構出てるって言ってましたよ。いいですよね、趣味が仕事って。今日は加茂港で釣りしてるんじゃないかなぁ」
『バタン』
警告しかもらってない取材なんて何の意味もないわ。そっちがそうなら、ジックリと面と向かって聞いてやろうじゃないの。
アバルトエンジンに積み替えたチンクエチェントに乗り込みキーを回し、サソリのエンブレムが光るステアリングを握った。
ダンジョン内はヌメッとしているイメージだったけど、意外にも空調が効いていて快適空間なのだった。
拍子抜けしていると、だんごが壁から湧き出てきた大きなゼリーを剣で真っ二つにした。
「これがこの世界のスライムニャのかー。つんつん、つんつん。フルーツの香りがするニャ」
「どれどれ。パクっ…ライチだね、これは。ライチゼリー」
「オハラさん!そんなの食べて大丈夫ですか!」
モンスターだし、ある意味で拾い食いだし…三秒以上経ってるし……。
「この世界ではモンスターの肉も食べるみたいだよ。うちの店でも肉饅の具に使ってるしね。ケンジさんも食べたら?美味しいよ」
「まぁ、そう言われるとナマコもホヤも大好きな珍味マニアですからして…パクっ……おおっ!美味い!何とも上品な甘さ。スライムなのが信じられん」
「そのままにしておくと、ダンジョンが死体を吸収するんですよ。なので…この核を拾っておくと後で売る事ができるんです。はい、だんごちゃん」
ノーラが野球ボール位の球を渡している。核って何だろ?
「ケンジさん、核っていうのはモンスターの身体の中に一つ以上ある魔力の元なんですよ。質のレベルによって高額で取引されたりしているんです」
相変わらず隣にピタッと付いているアイリスが説明してくれる。仕草や表情から欲している事を教えてくれるとは、アイリスはサービス業に向いてそうだけど。
「倒していったらレベルアップしたりするのかな」
人並みにゲームはしていたので、そんなのがボソッと口をついて出る。
「レベルアップするのニャ。何故なら、経験値が2だけアップしているからニャ」
だんごが両手を空中で動かしながら言う。だんごにしか見えないステータスウィンドウはそうなっているようだ。
「これってもしかして、凡人が強くなれるチャンス?」
腰にぶら下げていたビームセイバーを持ち、湧き出てきたスライムを五匹まとめて斬った。動きが少なく、その場でぷるぷるしているこいつらならイケる!
『〜♪』
「何だ今のは」
短く音楽が聴こえたんだけど。
「ダンジョンでは強くなるとさっきのが奏でられるんだけど、スライム五匹で鳴るとは…いや、おめでとうと言っておきますね…プフっ」
笑いを堪えながらノーラが言う。
「くそー!弱くて悪かったな!」
ダンジョンで最初に鳴ったレベルアップの音楽は僕のだったのです…。




