123話
トダ村に着いて、とりあえず大五郎さんの所に顔を出す。
「こんにちはー」
「あ、ケンジさん!会いたかったです!」
久しぶりのアイリスが抱き付きロケットと化して飛んで来た。ここの所すれ違ってばかりだったしねぇ。
「うおっ!アイリス、少し大きくなった?」
ふにゅん、て!ふにゅんが!
「えーっ!太ったって言いたいんですか?た、確かにお父さんの国の料理は美味しくて食べすぎちゃってましたけど」
成長期ですもの、そりゃあお腹は空きますぁねぇ。ふふふ、太った痩せたと気にしているのも可愛いではないですか。
「いや、その…当たってるから」
「あ!……やだっ……ごめんなさい!」
両腕で胸を隠す仕草が可愛さを更に増すねぇ。
「さっきからあんた達は何やってんのさ。親の前で乳繰り合いはやめておくれよ」
笑いながらカレンさんが出てきた。
「お母さんっ!」
「すみません、カレンさん。今日は蔵を見ながらダンジョンも見ていこうかと来てみたんですが、大五郎さんは?」
「あの人ならダンジョンを見に朝から出かけたっきりだよ。酒造りも今はする事がほとんどないから、私とアイリスで撹拌させるくらいだよ」
そう言って力こぶを見けてくるカレンさん。アイリスも筋肉がついてきてるんだろうか。はっ!だからか!抱きつきの時の力が強くなったの。
「そうですか、大五郎さんもダンジョンに…あ、そうだ、紹介しておきますね。こちらがアンバーに赴任されたノーラ騎士団長。あともう一人、宮廷魔術師のニコルさんて方もいます。今日はオハラさんを蔵見学させて頂きたかったんですけど」
「どうも、中華酒場の店主をしていますオハラです。私もケンジさんと同じ世界の人間なもので、こちらの日本酒がどのようなものなのか見てみたかったんですよ。お願いできますか?」
「納豆さえ食べてなきゃ大丈夫だよ」
「それなら見学させて下さい」
こうして小一時間の蔵見学となりました。
既に蔵のあちこちには麹菌が付いていて、昔からの造り酒屋の体ができつつあります。
「独特の香りがしてきたね。今後は酒米も新しいのを作りたいね」
アイリスもダンジョンが見たいという事でついてきています。左腕に…。
大五郎さんの家から歩いて五分の所にダンジョンはありました。
入口も洞窟チックなのを想像していたけど、何とも立派な門構えですなぁ。これが自然発生するシステムって何なんだろう。
既に混雑を緩和させる為に列の形成が成されていました。最後尾と書かれたプラカードを持った人がいるって事は、うまく捌けてるに違いないよね。
「既にお土産屋さんもあるのか……木刀って!」
鎌倉に来たのかと思ったわ!……ペナントは…まだないな。
「ケンジさん!私は列に並びますから!」
ノーラさんの目はもう射幸心を煽られてる人の目だ。
「ちょっと待ってくださいよー。オハラさんはどうします?中に入るんですか」
「もちろん入りますよ。その為のコレですから」
珍しく杖なんかついていると思ったら、何と仕込み杖でした。
「それじゃあ、お二人は中って事で。オハラさんは大五郎さんに会えたらよろしく言っておいてください。僕はお二人が出てくるまでこの辺を回ってますから」
土産物屋から食べ物の屋台、武器屋に防具屋、薬屋もあるし、どこから沸いてきたんだか。うわっ、金魚すくいもあるじゃん……。
「それじゃあ行きましょうか」
「お祭りみたい!うわー、何だろう?綿?」
「ははは、綿飴まであるのか。おっちゃん、一つ頂戴。ほら、こうやってちぎって…」
アイリスにあーんしてあげた。
「溶けます!美味しいです!」
まだまだ子供だねぇ。
「そういや、大五郎さんの実家はどうだったの?」
「セミ!凄く鳴いてました!あんなにうるさい虫は初めてです!後はホタル!光ってました!」
ほらね、まだまだ虫で感動できる歳なんだよ。背伸びしたい年頃かもしれないけどね。
「トンボも飛んでたでしょ」
「はい!すーっごく大きなのが!」
オニヤンマは山から旧市内まで降りてきてたけど、速くて捕まえられなかったなぁ。ギンヤンマも然り。
「その服、もしかしてあっちの?」
「はい、お父さんが買ってくれました」
「すごく似合ってるよ」
ああー、何だか娘がいたらこんな感じかも、て言うか、血の繋がりは微妙にあるしね。
「あー、それとね、またうちに住む人が増えました」
「えっ、誰ですか!」
「さっきの騎士団長とお連れの魔術師さん…」
「どっちも女の人じゃないですか!もう!」
ポカポカ攻撃をされつつ小走りで逃げる。
『ヤッター!ミスリルソードゲットしたぜぇ!』
ありゃ、ダンジョン産のレアアイテムってのを手に入れた冒険者が出たようだぞ。
「ケンジさん、ダンジョンて楽しそうですよね……冒険者かぁ、ちょっと興味あるかな」
「アイリスがもう少し大きくなったら、かな」
「ふふ、そうしたらケンジさんとも結婚できますよねー」
「…」
周りの冒険者達の視線が痛い……。