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魔汁キンミャー焼酎を異世界で  作者: 水野しん
第九章 暴かれるヒミツ
122/230

122話

 アンバーの自宅(皆の家)増築は予定通りに完了した。

 大工さん達をねぎらい、立ち飲みチコリの新しい側を宴会場にして飲めや歌えの大騒ぎをした。文字通りにサラがライブを行い、ちくわとささみに加えて猫ちゃんずもバックダンサーとして活躍した。サラってばあっちでいろんな曲をダウンロードしていたみたいで、まぁ、月額いくらの聴き放題的なライブでしたよ。意外にも演歌はこちらでも人気で、こぶしの真似をするのが流行りつつあります。


「いやぁ、今日はうちも大盛況でしたよ」

 向かいの中華酒場オーナーであるオハラさんが言う。


「そうそう、オハラさんも聞いてます?ダンジョンの件」


「聞きましたよー、ダンジョン。トダ村にできたんだってね。私も休みの日に行ってみようかと思ってるんだよ。ま、蔵を見に行くついでだけどね。ダンジョンって食材は採れないのかな」

 目を輝かせたオハラさんは、まるで少年の様なお方だ。見た目はモジャ毛のおっさんですけどね。


「オハラさんも結構ミーハーですね。トダ村に行ったら新鮮な川魚も食べられますから、楽しんで来てくださいよ」

 確かオハラさんは魚っ食いだったはず。


「それは楽しみだよ!」




 それからだんごを呼び出してダンジョンについて話してみた。


「ほぅ、ダンジョンですかニャ。だんごは前の世界でゲームが好きだったから、ダンジョンはゲーム内の知識しかないですけど…興味はありますのニャ。多分、自動マッピングシステムも使えると思いますニャ」

 何とまぁ便利なシステムが使えて羨ましすぎます。


「だんごはゲーマーなのかぁ……そうだ、これ分かる?」


「何ですか?小さな端末機器に見えますけど」


「あれ、だんごの世界じゃ携帯電話ってないの?」


「電話はありますけど、腕輪に仕込まれてる感じのと、後は空中にウィンドウを出して会話しますから」

 あらら、うちらより更に未来的な電話社会なのね。


「だんごのシステムより古い物だと思うけど、小さいコンピュータと電話、カメラが一緒になった物だよ。僕らの世界にもテレビゲームがあって……ほら、ロールプレイングゲーム。で、ダンジョン」


「うわぁ!やりたいニャ!」


「この端末、まだあるから後で渡すよ。それで、騎士団長さんもダンジョンに行きたいみたいだから、だんごもついて行ってくれないかな。僕はトダ村までは行くけど流石にダンジョンには入れる人間じゃないし…」

 武器も使った事はないし、格闘技経験も高校生時分の体育の柔道くらいだからなぁ。モンスターと組合えるはずもなし。


「ケンジさんは荷物持ちをすればいいニャ。それに、ビームセイバーが使えるじゃニャいですか」


「映画の真似して殺陣ができても果たしてモンスターなんて斬れるかなぁ」


「何とかなるニャ。そーゆーものニャ」


 だんごの強引さに負けて、荷物持ちとしてダンジョンに入る事になりそうだ。狭くて暗いのも苦手なんだけどなぁ。






 支局の朝は早い。

 真壁忍は今日も遅刻だ…!


「何なのアイツ!」


 アタシはあれから帰らずにここで情報を精査しているのに…。

 ま、怒っても仕事が終わる訳じゃないのよね。もらった情報は内容が凄すぎて、公にしても夢物語とバカにされちゃうわね。こんな漫画みたいな出来事が現実に起きているなんて。

 異世界というのはパラレルワールドではなく、文字通り全く異なる世界みたいね。文明はこちらの中世程度で剣と魔法の世界ではあるけど、魔王みたいな存在はいなくて戦争も起きてはいない。


「葉山一族はその世界に昔から干渉できていた……何者?」


 ケンジというのがドラゴンが飛んでいた真下にある家の長男。妹は東京にいて、弟は最近まで実家暮らし。ビームセイバー(本物の)を造れる人物。最初はネットで元ネタのファンが騒いでいたのを見たけど、後で実物を手に入れてみたら正に本物だった。LEDライトで光らせるパチモンとは全くの別物。今の科学じゃ造れないのに…。


「このブラックドラゴンも空中での羽ばたき方が変よね。まるで、重力を操っているみたい」

 これを操れるって事は、この世界ですら支配できちゃうんじゃないかしら。異世界があって、彼らに支配されそうになってるのは大事だけど、言ってみれば対岸の火事。ここは異形の兵器を持つ日本人としてスクープした方が効果的かも。


『おはよーございまーす』


 怪獣映画でも都市が簡単に破壊されるシーンが出てくるし、その辺の画像の使用許可を申請して印象付ければ分かりやすいんじゃないかしら。


『おはよーございまーす。印象操作はまずいんじゃないですかー?』


 はびこる悪に容赦なんて不要なのよ!

 東京で警察の不正を暴こうとした時、警視庁内部に協力してくれた二人組がいたけど、法律を犯して暴くのは間違いだ、なんて説教しだしたのよね。悪を叩くには、少しばかり無理してでもやらなきゃいけないのが何で分からないのかしら。


『おはよーございまーす。コーヒー淹れましたよー』


「うわっ!真壁じゃない!いつからいたのよ!」


「何なのアイツ!って切れてた時からいましたけど。あ、コーヒーどうぞ」


「真壁くーん、遅刻よ、遅刻!いくらコーヒーが美味しくてもプラマイでマイナスなのよっ!」


「朝イチで葉山さんとこにお邪魔してインタビューしてきたんですけど」


「え!」


「瞳子さん、今晩飲みに行きましょうよ」

 レコーダーを取ろうとすると阻止される。


「むむ…半熟的な態度ね……」


「美味しいやきとん屋さんがあるんですよー。ね?行きましょうよ」


「分かったわよ、行けばいいんでしょ、行けば。それにしても、連絡一つ寄越さないのは社会人としていただけないわね。今後は注意する事」

 真壁は一体どうやって葉山家に入り込んだっての?アタシにはなしのつぶてだったのに。


「これを聞いたら文字起こしを頼めるかしら?………ちょっと、聞いてるの?」


 既に真壁はいなかった。


「ぬぬぬ!出かけるなら一言言ってからにしなさーい!」

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