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魔汁キンミャー焼酎を異世界で  作者: 水野しん
第九章 暴かれるヒミツ
120/230

120話

「王様…いくら楽しいからって飲み過ぎですよ」

 エルディンガー二世が久々の立ち飲みチコリを堪能しまくり、結局、客の勘定を全部払うという太っ腹を発揮したので客達も盛り上がり…店内外は死屍累々の有様なのですよ。

 猫ちゃんずはそんな横たわった客をよけつつ、掃除を完了してくれました。バニラ、チョコ、モカとラッテにミルクが猫ちゃんずなんだけど、最近はアンバーの野良猫達を教育し始めて、猫を見つけて寄ってくる人達を店に誘導しているらしい。それを知ったら野良猫達にも給金代わりにご飯をあげないとね。こうして、野良猫達は立ち飲みチコリの飼い猫になり、夜になると、裏手に新築した猫屋敷に帰ってくるのです。


「アンバーに毎日でも通えると思ったら、つい、な…はっはっは」

 この人は酒強いなぁ。水をジョッキであおったと思ったら復活しちゃったよ。

 そういや僕は最近知ったんどけど、エルディンガー二世は王妃を病気で亡くしたらしい。それでかぁ、奥さんの話とか普通はしたりするもんけど、王様からはそんな話を全く聞かなかったので、こちらからも聞きにくかったんだけど…やはりそうだっとのか。王様は王様なりに色々頑張っているんだなぁ。僕も見習わねば。

 それに、あんなにも頑なに息子を助けようとしていたのは、もう身内をなくしたくない気持ちの現れかもしれないな。


「少し休んでから帰ったらどうです?」


「あの件の後だ、本来なら徹夜で事後処理をしなければならない時に抜け出させてもらったのだ。すぐにでも帰らねばならんな。今回はサラに頼みたいが」


「サラー、王様を送ってってくれるか?」

 洗い物中のサラに声をかけ、王都まで連れて行ってもらう事にする。


「それではな」


「毎度あり!」

 敢えて他の客と変わらない態度で送り出した。






「今日もお疲れ様でした。王様が多く支払ってくれたので、いつもより多くの売上になりました。それと、アンバーに残っていたメンバーに今更な報告ですが、街の防衛などを取り仕切る騎士団長としてノーラさん、補佐で宮廷魔術師のニコルさんが赴任されました。二人は……何故か…増築中の部屋に住む予定です。予定外に大所帯になりましたので、一部の添い寝は廃止とさせて頂きます」


「「「「えーーっ!」」」」


 一部の方々が一斉に反対したけど、落ち着くまでは休止って事で手を打たせられた。どうか僕に一人の時間を下さい……。


「うーん、家事のローテーションも組み直さないといけないわね」


「その辺はラムにお願いしていいかな?」


「まぁいいけど、食事担当は全員は出来ないし、人数は増えたしでこれからは大変なんだけど、何なアイディアはない?」


「食事といえば、店の裏にいる猫ちゃんずの食事も家事に入れないとな。それともめんどいからこっちに来てもらうか?」


「縄張り的に店の方がいいみたいよ」


「そうなんだ。んで、料理担当をどうするか…いっその事メイドでも雇うか?」


「うーん…」

 何で悩むんだか僕には分からないなぁ。


「まともに料理ができるのはナターシャと僕。バニラ達は流石に小さいから無理はさせたくないし。他の担当を許してくれたら二人で何とかするけど」


「二人っきりさせるのも…うーん……」

 更に悩みやがって。


「めんどいから任せるわ。じゃ、オルカの宿に行ってくるから」

 考え込んでいて何も聞こえていないラムを残し、一人オルカの宿へ向かう。






 途中、冒険者ギルドの前に人だかりができていた。


「珍しい事もあるもんだな」

 辺境で冒険者がやる事は少ない。ましてやアンバー近辺はモンスターも少ないらしいから、ここに来るのは酒を求める飲ん兵衛ばかりだ。

 僕らが来る前の、あのエールでさえ、この国では美味しい部類だったのだ。戦争がない時期だから、食への欲求は高くなっている。だから、醸造技術も料理のレシピも王都を始め、他の街にも速攻で伝えられていった。


「やぁ、どーもどーも。何の騒ぎですか?」

 立ち飲みチコリの常連さんがいたので声をかけてみる。


「お、マスター、大変なんだよ。トダ村にダンジョンが出現したんだってよ」


「ダンジョンですか?」


「何だい、ピンと来てねぇみたいだな。ダンジョンが発生したって事はこれから冒険者が多数来るってこった。宝やモンスターの素材も流通しだすから、商売的にもアンバーは潤うぞ。マスターんとこも客で溢れ返るだろうな」


「マジすか…」


 これは家事のローテーション以上に考えておかねばならない事案だな。店員の更なるレベルアップを早々にやらないと、今は客が来てきてくれても、その内に置いてけぼりにされてしまいそうだ。


 アンバーは歴史上、一番熱い時期に差し掛かっていた。

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