117話
「えーと、ノーラさん?こちらの方は?」
騎士ノーラは一人ではなかった。
「ニコルですけど?」
ニタニタしている、昨夜出会った店員がそこにいる。
「それは分かってます!酒場で会いましたから…って、僕が言いたいのはそうじゃなくてですね…」
「ケンジさん、ニコルも一緒にアンバーに行くんですよ」
ノーラさんの笑顔が眩しいっ!
「何故?、と聞いてもいいですか?」
「ニコルは趣味で酒場の店員をやってますけど、実は宮廷魔術師なんです。それで、陛下の許しも得たので一緒にアンバーに行く事になりました。この短期間で、王都にもアンバーからエールの新しい醸造技術が入ってきてたでしょ?ケンジさんなら分かるはず。陛下にとってアンバーは守るべき要なんですよ」
えっへん、と言わんばかりに胸を張りながら言う。単に酒飲みが飲めなくなるのは困るから、お前、行ってきて守れ、って言われている様なものなんだけど…。
「なるほど…ニコルさんが城のお偉いさんなら高給取りなのも納得だわ」
彼女なら問題なくオリハルコンのアクセサリーも買えるし、色んな知識もありそうだなぁ。これは勉強できるいい機会かも。
「それなら紹介させて下さい。彼女はサラ。魔法使いで立ち飲みチコリの店員です。移転魔法が使えるので、こうして遠出する時は一緒になります。この娘はフク。僕が飼っていた猫の生まれ変わりです。ちくわとささみは普通の猫だったんだけど、飛んだり、人の言葉が話せるようになってしまいました…だんごは異世界から召喚された勇者です」
「これは…陛下から聞いた以上に面白い人達ですね…中年男に魔法使い、そして猫、猫、猫…フェイントで勇者とは……あ、この耳と尻尾は後付です。魔法で肉体と融合させてはいますが私は人族ですので」
えっ!そんな事ができるのか。ぬぅ、宮廷魔術師って凄いな。
「ニコルさんの方が面白いよ。なんでケモ耳と尻尾なんですか。魔法使いそうもない格好って」
「それ!それだよ!使いそうもないってのを実践しているのさ。相手を油断させる事も時には大事だからねぇ。まぁ、酒場ではモフモフな部分は人気があったんだよ…それに、尻尾でお尻を触ってくる手を叩ける」
ケラケラと笑いながら話すニコル。今も例のホットパンツ姿だ。
「それでは明日の昼にアンバーに発つことになりますので、それまでにやる事は終わらせておいて下さいね。それでは」
二人はドアを閉めて部屋から出ていった。
「やる事なんて…そうだ、お土産を買いに行こう」
皆も賛成してくれたので、そのまま街へと出かけたのだった。
「こんなものかな。皆も欲しい物は買えたのかな?」
王都には土産物屋があったので、無難に焼菓子詰め合わせと可愛らしいハンカチを人数分選んだ。皆もそれぞれに買い物はできたみたいだった。
「あら、ケンジじゃない。悠長に買い物なんかしていていいのかしら」
バッタリとルナ、マーズの姉弟に会う。
「あれ?あっちの世界にいるはずじゃなかったのか。それにバッカスは?」
「バッカスはまだ酒を堪能してるわよ。私達はアンタの助けにやって来たんじゃない。おかげで城は無事だったでしょ?」
腕を組んでフンスと胸を張るルナ。
「俺は姉ちゃんが暴走しないか見てたんだ」
「火を消してくれたのはルナだったのか。助かったけど、何でわざわざそんな事をやってくれたんだ」
「バッカスの命令なんだもん」
「そ、そうか」
バッカスに行けって言われたら行くのがルナか。
「二人とも、ありがとうな。もう大丈夫だから、あっちに戻っていいんだぞ?」
「命令は続行中なのよ。だからアンタ達についてくから」
「命令って…」
「ケンジ、アンタはもう少し緊張感を持った方がいいわね。私達はこのままアンタの護衛に付くわ。だからついてくのよ、分かったかしら?」
「これって、僕がお父さんでサラがお母さんの子沢山家族みたいだよね」
つい口から緊張感のないセリフが出てしまう。