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魔汁キンミャー焼酎を異世界で  作者: 水野しん
第八章 酒の為ならどこまでも
114/230

114話

 火の手が上がる王城が見えてるけど、消すのは簡単なのよねぇ。ブラックドラゴンは『全て』の魔法が使えるの。更に言わせてもらえば、新しい魔法も作れちゃうのよね。だから、戦闘で亡くなったブラックドラゴンは今までいません。これって凄くない?バッカスは凄いって頭を撫でてくれたわよ。


「水魔法を広域にかけちゃえばイイわけでしょ…えいっ!」

 燃えてる火には水でしょ水。

 四方八方から、炎を包み込む様に水を発生させてはかけていくのよ。


「あーあ、こりゃ、城の中はビチョビチョだな」


「知らないわよそんなの!火が消えたからいいでしょ、人間なんて簡単に死んじゃうんだから濡れたぐらいどーって事ないわよ」

 マーズはいざって時に全力が出せないタイプだから、少しは見習いなさいっ。


 王城に近付くと人間が逃げ惑っていたけど、ケンジや王が教えたのか、私達に敵対する人間は一人もいなかった。ふん、別にレベルが低い人間なら攻撃されても痛くないんだから。


「マーズ、人化してケンジか王と合流しましょう。敵っぽい気配もするけどそっちは後回しよ」


「分かったよ」






「うへぇ、ビチョビチョだ…でも助かりましたね」


「助かりはしたが、片付けるのは大変だな、ハッハッハ!」


 怒らないんだな。


「もうすぐ中庭だ。そこに皆避難しているはず。安否確認から被害の把握に、今後の対策もせねばな」

 どこからともなく現れたメイドに着替えさせられた王様は、さっぱりした表情でやる気満々だ。

 反対に、濡れたままで身体が冷えてきた僕は風邪を引きそうだ。ポケットサイズのウィスキーを取り出して口に含む。カーッと食道から胃までが燃え上がるように熱くなってきた。


「ご主人様!……ビチョビチョなのニャ」


「フク!無事だったか。他の皆もいるな、とりあえずホッとしたけど」

 フクは抱きつこうとして躊躇したねぇ。まぁ、仕方がないんだけど。


「ケンジさん、乾かします!」

 サラが風と火の混合魔法で服を乾かしてくれた。避難してきている人達にも濡れたままってのが多かったから、サラに頼んで乾かし無双してもらった。


「お、ケイティ、元気だったか…って、こんな事になって元気もあったもんじゃないけど」


「平凡な毎日よりはいいですよ、刺激があって」

 笑いながらそう言うケイティは、前よりも少しだけ強くなったような気がした。


「昔の女に未練たらたらかしら」


「ルナ…そう言う言い方はよくないぞ!」

 軽く両こめかみをグリグリする。


「イタタタタ!やめっ、やめなさいっ!」

 ちびっ子はジタバタして痛がる。


「こんな時におちょくるからだよ」


「助けに来てあげたんじゃない!」


「それには礼を言うよ、ありがとう。でもお前達はあっちにいたんじゃないのか」


「バッカスが助けに行ってこいって言うから来たのよ。ほら、近付いてきてる…邪悪な気配がするわ」

 こめかみを押さえながらこっちを睨む。


「ご、ごめんって。さ、流石にブラックドラゴンだなぁ。な、フクもそう思うだろ」


「凄いのニャ!凄い速さで飛んできたのを見ていたのニャ!乗せてほしいのニャ〜」

 フクはルナに抱き付いていた。


「わわっ!何、この猫は!ケンジの飼い猫でしょ!何とかしなさいっ!」

 美少女に美猫耳少女が戯れる画ってのもいいものじゃないですか。


「フク、今度乗せてくれるってさ。だから今はこっち来い」

 よしよし、ナデナデ。


「なんで乗せることになってるのか分かんないけど、まぁいいわ、バッカスがケンジによろしくって言ってたわよ。それで、ケンジを助けに行ってこいって言うから来たのよ」

 フンス、と、ない胸を張り、大股で仁王立ちする負ルナだった。神なだけあってバッカスは全てお見通しって事か。


「助かったよ。誰一人死人が出ていないし、後は犯人探しだな」

 この騒ぎの中で見つかるとは思えないけどな。タイミングがよすぎるんだよ。


「火をつけた奴は近くにいるわよ」

 仁王立ちのままルナが言う。


「へ?」


 ルナの手から何かが一直線に放たれる。

 その先にいるフードの人間に当たる。が、右腕で弾かれてしまう。


「ウインドアローくらい弾いちゃうよねー。フフフ、楽しくなってきたんじゃないの?ほら、そこの人、お兄さんに挨拶でもしたらぁ?」


「ん?お兄さんて?」


 フードの怪しい人間に目をやると、そいつはフードをとろうとしているところだった。そして、そこにはよく知る我が弟『賢輔』の顔があった。


「ドラゴンの小娘が、俺に傷をつけられるとでも思ったか」


「賢輔!お前生きてたのかっ!」

 弟は禍々しい表情でそこにいる。


「誰だお前は…賢輔…知らんな」

 僕にはまるで興味がないように言い捨てる。


「おい、どうなってる、ルナ!」


「精神を乗っ取られてるとか、そんなところかしらね。治せとか言わないでよ、私には無理だから」


「さて、お喋りはそこまでだ。我々はこことは違う世界から来た。そして、この世界を力で支配する者也!」

 賢輔は一気に間合いを詰め、赤いビームセーバーを一振りした。



「ぐはっ!」


 激痛と共に右手首から先がなくなっていた。

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