114話
火の手が上がる王城が見えてるけど、消すのは簡単なのよねぇ。ブラックドラゴンは『全て』の魔法が使えるの。更に言わせてもらえば、新しい魔法も作れちゃうのよね。だから、戦闘で亡くなったブラックドラゴンは今までいません。これって凄くない?バッカスは凄いって頭を撫でてくれたわよ。
「水魔法を広域にかけちゃえばイイわけでしょ…えいっ!」
燃えてる火には水でしょ水。
四方八方から、炎を包み込む様に水を発生させてはかけていくのよ。
「あーあ、こりゃ、城の中はビチョビチョだな」
「知らないわよそんなの!火が消えたからいいでしょ、人間なんて簡単に死んじゃうんだから濡れたぐらいどーって事ないわよ」
マーズはいざって時に全力が出せないタイプだから、少しは見習いなさいっ。
王城に近付くと人間が逃げ惑っていたけど、ケンジや王が教えたのか、私達に敵対する人間は一人もいなかった。ふん、別にレベルが低い人間なら攻撃されても痛くないんだから。
「マーズ、人化してケンジか王と合流しましょう。敵っぽい気配もするけどそっちは後回しよ」
「分かったよ」
「うへぇ、ビチョビチョだ…でも助かりましたね」
「助かりはしたが、片付けるのは大変だな、ハッハッハ!」
怒らないんだな。
「もうすぐ中庭だ。そこに皆避難しているはず。安否確認から被害の把握に、今後の対策もせねばな」
どこからともなく現れたメイドに着替えさせられた王様は、さっぱりした表情でやる気満々だ。
反対に、濡れたままで身体が冷えてきた僕は風邪を引きそうだ。ポケットサイズのウィスキーを取り出して口に含む。カーッと食道から胃までが燃え上がるように熱くなってきた。
「ご主人様!……ビチョビチョなのニャ」
「フク!無事だったか。他の皆もいるな、とりあえずホッとしたけど」
フクは抱きつこうとして躊躇したねぇ。まぁ、仕方がないんだけど。
「ケンジさん、乾かします!」
サラが風と火の混合魔法で服を乾かしてくれた。避難してきている人達にも濡れたままってのが多かったから、サラに頼んで乾かし無双してもらった。
「お、ケイティ、元気だったか…って、こんな事になって元気もあったもんじゃないけど」
「平凡な毎日よりはいいですよ、刺激があって」
笑いながらそう言うケイティは、前よりも少しだけ強くなったような気がした。
「昔の女に未練たらたらかしら」
「ルナ…そう言う言い方はよくないぞ!」
軽く両こめかみをグリグリする。
「イタタタタ!やめっ、やめなさいっ!」
ちびっ子はジタバタして痛がる。
「こんな時におちょくるからだよ」
「助けに来てあげたんじゃない!」
「それには礼を言うよ、ありがとう。でもお前達はあっちにいたんじゃないのか」
「バッカスが助けに行ってこいって言うから来たのよ。ほら、近付いてきてる…邪悪な気配がするわ」
こめかみを押さえながらこっちを睨む。
「ご、ごめんって。さ、流石にブラックドラゴンだなぁ。な、フクもそう思うだろ」
「凄いのニャ!凄い速さで飛んできたのを見ていたのニャ!乗せてほしいのニャ〜」
フクはルナに抱き付いていた。
「わわっ!何、この猫は!ケンジの飼い猫でしょ!何とかしなさいっ!」
美少女に美猫耳少女が戯れる画ってのもいいものじゃないですか。
「フク、今度乗せてくれるってさ。だから今はこっち来い」
よしよし、ナデナデ。
「なんで乗せることになってるのか分かんないけど、まぁいいわ、バッカスがケンジによろしくって言ってたわよ。それで、ケンジを助けに行ってこいって言うから来たのよ」
フンス、と、ない胸を張り、大股で仁王立ちする負ルナだった。神なだけあってバッカスは全てお見通しって事か。
「助かったよ。誰一人死人が出ていないし、後は犯人探しだな」
この騒ぎの中で見つかるとは思えないけどな。タイミングがよすぎるんだよ。
「火をつけた奴は近くにいるわよ」
仁王立ちのままルナが言う。
「へ?」
ルナの手から何かが一直線に放たれる。
その先にいるフードの人間に当たる。が、右腕で弾かれてしまう。
「ウインドアローくらい弾いちゃうよねー。フフフ、楽しくなってきたんじゃないの?ほら、そこの人、お兄さんに挨拶でもしたらぁ?」
「ん?お兄さんて?」
フードの怪しい人間に目をやると、そいつはフードをとろうとしているところだった。そして、そこにはよく知る我が弟『賢輔』の顔があった。
「ドラゴンの小娘が、俺に傷をつけられるとでも思ったか」
「賢輔!お前生きてたのかっ!」
弟は禍々しい表情でそこにいる。
「誰だお前は…賢輔…知らんな」
僕にはまるで興味がないように言い捨てる。
「おい、どうなってる、ルナ!」
「精神を乗っ取られてるとか、そんなところかしらね。治せとか言わないでよ、私には無理だから」
「さて、お喋りはそこまでだ。我々はこことは違う世界から来た。そして、この世界を力で支配する者也!」
賢輔は一気に間合いを詰め、赤いビームセーバーを一振りした。
「ぐはっ!」
激痛と共に右手首から先がなくなっていた。




