112話
王城はとても広く、先導する老紳士に連れられているが途中で誰ともすれ違わない。ちなみに執事長らしく、王子の一件も知っていて御礼を言われた。
時折、外が見える通路に通りかかると外で何かを訓練する様な声が聞こえた。まぁ、これも見えなかったんだけどな。
「長いカーペットだなぁ…これって継ぎ目が分からないけどもしかして全部繋がってるのかな……そうだとするともの凄く高そうなんだけど。流石、王城って感じだな」
「王様って凄い所に住んでるんだニャァ…」
フクも猫の時は僕のマンション住みだったし、猫人族になってからも至って普通の生活。王城ってのはもはやアトラクションみたいな感じになっている。
「両親にこの事を話しても、きっと信じてくれませんよ…アンバーで普通に会話しただけでも凄い事なのに…」
まぁ、普通はそうなんだろうなぁ。
「そういや、ケイティは元気でいるかな」
王子に見初められて王都へ行ってしまった彼女は、立ち飲みチコリの元店員だ。あれから何だかんだで色々あったなぁ。
ちなみに向かいのオハラさんとこも二号店を出すとか話していたなぁ。ベニちゃんも元気に働いている。
「そろそろ謁見の間ですが、ケンジ様達は別の部屋へお通し致します」
「ああ、そうですか。よろしくお願いいたします」
実はこの受け答えは僕が何も分かっていないから出てしまったものだった。跪いて、表をあげよ云々ってのが普通なんだねぇ。
「これまた、装飾が凄い事になってるな」
重厚な扉の奥に案内され、そこで待つように言われる。適当にソファが置かれた部屋だったが、装飾は嫌味がなくて落ち着ける部屋だ。王様の趣味なのか、それとも部下の趣味なのか、とにかく座って肩の力を抜かせてもらった。
ちくわとささみはサラの膝の上でくつろいでいる。
フクは隣に座ったが、だんごがくっつく様に座ってきたので両手でイヤイヤ体勢になっている。
「待たせたかな」
エルディンガー二世が入ってきた。
「いえ、王様、お会いして頂きありがとうございます」
「かしこまらなくてもいいぞ。ケンジの事は友と思っているのだからな。それで、わざわざ王都にまでやってきた理由は何なのだ?」
「異世界から悪意を持った者がアンバーの街を攻撃してきたんです。修道院に致死に至る病を撒き散らしました」
「待て待て、異世界とは?どういう意味だ」
王様はソファから身を乗り出しつつ話してくる。
「あれ?だんごを召喚している国があるんだから、国のトップは知ってるんじゃないの?」
サラに向かって言う。
「どうでしょう、私はラムさんについて行くまで知りませんでした」
「そうなんだ……えーと、王様、異世界とはこの世界とは別の世界があると言う事です。僕も魔法がない世界からこの世界にやって来ました。今回の出来事は、危害を加えるのが目的でやって来ているという事が問題なのです」
「何と、ケンジも異世界からやって来たというのか……ふむ、あの酒の数々を飲まされたら納得してしまうな。それで、その敵に対して対処しろと言う事か」
「はい、話が早くて助かります。それと、現在、アンバーには町長がいない為に防犯対策が出来ないでいます。この辺も、できる事なら王都直轄で対処して頂きたいのです」
このタイミングで杏屡酒を出す。
「ん?これは何だ」
「あっちの世界からの土産です。飲みながら話しましょう」
王様と僕の分のグラスに杏屡酒を注ぐ。琥珀色の液体から甘酸っぱい香りが立ち込める。
グラスを交わしながら、修道院、病気、弟にリリィの事などを話す。
「それでですね、一緒に来ているだんごは、僕の世界とも違う世界から召喚された者になります」
「ほぅ、この可愛い猫人族が…召喚した国はどこなのだ」
「それが、この国に隣接していると思うんですが、迷いに迷った挙句に行き倒れで発見されたので…」
フクにくっついてシュンとするだんご。嫌がっていたフクが頭を撫でてやっている。
「国に隣接しているのは四ヶ国ある。猫人族の国とは昔から同盟を結んでいる友好国だから外しても、三カ国あるからな。それに今はどこでも小競り合いすらない、そんな意味では平和なのだが」
「こちらも、サラが転移魔法を使えるようになったので、調べて回る予定です」
王様は少し考えてから言う。
「もしかするとケンジが狙いなのかもしれんな。ま、心配するな、悪いようにはせん。俺とお前は友であろう」
「ありがとうございます」
そう言って懐からプレミアムなウィスキーの小ボトルを取り出す。
「む、まだあったのか」
「顔がニヤけてますよ」
「他の者達は飽きてきただろう。王子とケイティと会ってきたらどうだ」
案内してくれた老紳士がノックと共に入ってきた。
「王様は気が利くのニャ」
大胆なフクの発言に大笑いしながら、王様はグラスを煽ったのだった。まだ期待してますか、その顔。