110話
「ナターシャ達も頑張ってくれたお陰で、店も無事に営業日できました。今後も色々と大変な事があると思いますが、よろしくお願いいたします」
力になってくれた治癒魔法使いのオジサンも、美味い酒ですなぁ、と、しこたまビールを飲んで宿に帰っていった。フクが何故かオジサンを気にしていたが、まさかオジサンコンプレックスなのではなかろうな。いや、オジコンでもいいですけどね…僕を好いてくれているのですから。
それから、家に帰って、各々の報告会になった。
まずは修道院の状況。
「マリーナさんを始め、病気にかかっていた修道士達は快方に向かっています。呪いというのは、病気をぶり返す様に仕組まれていたようです」
ラムがそう報告すると、だんごが補足する。
「こんな事をするのはよその世界の者だと思うニャ。リリィがやったのか、それとも他にもいるのか、その辺までは分からないニャ」
そして、何かを手渡してくるだんご。その手にはくすんだミスリルの指輪が握られていた。
「似てるけど僕らのしている指輪じゃないな」
「こっちではどうか知らないけど、ミスリルは呪いの触媒に使えるのニャ。それは水瓶に入れられてたニャ」
「そこから感染させられたのか」
だんごがこんなに頼りになるのを見ていると、弱いってのは嘘なんじゃないかと思う。本当はどうなんだろう。
「そういや、アンバーの防犯対策はどうなってるんだ?警備の兵士なんて見たことがないけど。それに、亡くなった後の町長はどうなったんだ」
「街が雇った傭兵が巡回警備したりしてたけど、町長が亡くなってからはどこがお金を出すかで揉めてるみたいね。もう、王様になんとかしてもらうのが一番かもね。売った恩は返してもらわないとね」
ラムは何故にアンバーに来られるようになったのか…いるのが当たり前になってスルーしまくっていたけど、言いたくないならまぁいいか。
「街のリーダー的な役割はやりたくないんだけど、こうなってしまったからには王様に頼んでみるしかないか」
バニラ達がお茶を淹れて持ってきてくれた。
「バニラはお茶淹れるの上手いね。ありがとう、それで店はどうだったの?」
「串焼きは全部売れたニャよ」
と、バニラ。
チョコやモカとラッテにミルクはビールを注ぐのに箱に上がってやっていたらしく、その姿が可愛いと評判なったそうだ。
「明日からは通常営業するけど、午前中は弟の事で動くからよろしくな」
サラの移転魔法で王都に行くか。だんごも連れて行った方がいいかもな。土産に業務用サイズの杏屡酒でも持っていこう。
「さて、今度はどこへ行こう」
「歩くのも流石に疲れたわね」
「姉ちゃん、あの人知ってるぞ。乗り物から降りてきたから、あれに乗せてもらおうよ」
「あれは串焼き名人だな。結婚式の時に食べたが、得も言われぬ美味さだった。とりあえずついて行ってみるか」
俺達は串焼き名人の後を追った。
「ん?何ついて来てんだ」
「もうバレちゃった。マーズがもたもたしてるからでしょ、もう」
「話さなくちゃいけないんだし、見つかってもいいんだよ!」
「ああ!確か、トダ村で結婚式を挙げてた…なんて言ったか……」
「ザシャと妻のルナ、それに弟のマーズだ」
「おお、そうか!って、名前は初めて聞いたんだったわ、ハッハッハ。買い物か?」
「ルナが疲れてるのでな、串焼き名人の乗り物に乗せてもらおうと頼みたかったのだが」
「これから買い物するから、少し待ってもらえるか」
「それでは外で待とう」
串焼き名人は気持ちのいい男だな。
結局、串焼き名人が酒場をやっていると知り、そのまま店に向かう事になった。
「しかし、立ち飲み屋があんなに混むとはな」
冒険者風の若い男が言う。
「猫耳の小さい小達が可愛いからだろ。それに串を焼いている女性もエルフだし」
こちらは少し腹が出ている男だ。
「それもあるかも知れないが、食い物も凄く美味かったな」
「ああ、それに酒!何でこんな辺境にあんな美味い酒があるんだ。それに見たか?壁にさり気なく王家御用達のプレートが飾ってあったぞ」
「マジかよ。まぁ、楽しみがあった方がいいし、これからはオープン前に並ぼうぜ」
冒険者ギルドの酒場に来る客が少なくなった。どうしたものかと最近話しに聞く立ち飲み屋を偵察に来たら、凄い賑わいではないか。
「おい、あれって…」
「アンバーのギルドマスターだ。飲みに来たのかな」
冒険者ギルドは、酒場でされる何気ない会話が情報として重宝されたりする。それがめっきりなくなっては仕事にならない。むむむ、どうしてくれよう。
そう、俺はここアンバーの冒険者ギルドマスター『ブラス』だ。辺鄙なこの街にいると、ろくな仕事がない。そこで、情報を売って何とか財政を保っているのだが…。
「ああ、いたいた!ブラスさん!こんな所で何やってんですかっ!」
「ん、まぁ、何だ、その」
「これから忙しくなるってのに!油売ってないで仕事して下さい!」
部下のクセに生意気だ!俺がどんなに仕事をしているのか!今だって…。
「トダ村に出来たんですよ!」
「何がだよ、日本酒の新しいのか?」
「違いますよっ!ダンジョンですよ、ダンジョンっ!遂に来ましたよ、アンバーの時代が!」




