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魔汁キンミャー焼酎を異世界で  作者: 水野しん
第八章 酒の為ならどこまでも
107/230

107話

 インフルエンザからようやく開放され、だんごが手配した治癒魔法の使い手がアンバーに到着した頃、僕は弟の賢輔が亡くなったのを知らされた。

 リリィを庇って暴れ馬に蹴られたとの事だった。

 急な出来事に頭が追いつかなくて、だんごの手伝いが出来ないでいる。どうしてこうなった!


 これからアンバーの家に戻る。

 そこには弟がいるはずだ。






「ご主人様、大変ニャ!」

 家についた途端にフクが駆け寄って来た。

「リリィと弟様がいなくなったニャ!」


「ちょっと待て!マジで頭が変になりそうだ!」


「ケンジさん、私達が仮眠をしている間に弟さんの御遺体とリリィが姿を消してしまったのです」

 シュンとしたサラの肩にはちくわとささみが乗っている。


「消えたって、何で……」


 重い空気がその場を支配する。


「すまないけど、誰か雑貨屋に行って母ちゃんを連れてきてくれないか」

 異世界で楽しく立ち飲み屋をやる毎日。色んな事が起きてきたけど、こんな訳の分からない状況は初めてだ。


「…修道院の状況はどうなんだ?」


「だんごちゃんが頑張っています。それにラムさんも手伝いに行っています」


「そうか……とりあえず皆も休んでくれ。疲れているのが丸わかりだぞ」

 サラにフクがうなずくが、部屋から出て行こうとはしない。全く困った奴らだよ。


「バニラ達は?」


「店を開けるか分かりませんでしたが、一応仕込みをしていた方がいいという意見が出まして、ナターシャを先頭に串打ちと煮込みを作ってもらっています」


 店か…本当なら休むべきなんだろうけど、どうするかな。


「待たせたな!」


「アニキ、アニキー!って、空気読めって、大五郎叔父さん。戻ってきたんだ?」


「赤信号が灯ってんだろ?身内が力にならずにどうするってんだ。カレンとアイリスは居間に置いてきた」

 何だよ空気読んでんじゃねえか。年の功だな。


「店は開ける。店の都合で楽しみを奪ってはいけないよな。ラムとだんご……リリィもいないからフライヤーのある新しい側は閉めて、昔からのカウンターだけにしよう。それなら何とかなるし何とかできる。こんな時だけど、皆の力を貸してくれ!」


 こうして、立ち飲みチコリは営業する事にした。

 呪いが含まれる病気に蝕まれた修道院。

 突然の弟の死とリリィの失踪。


「大五郎叔父さんは王様やってたんだから色々知ってそうだし、店の事以外にも後で聞かせてくれよな」


「おぅ、知ってる事なら何でも教えてやる…でもな、叔父さんはやめてくれ。今まで通りに大五郎でいいよ」


「酒でも飲みたい気分だな…ま、病み上がりで無理だけどさ」






 バニラにチョコ、モカとラッテ、ミルクを指揮しながらナターシャは凄まじい勢いで串を焼き続けていた。

 修道院の事も噂が流れるのは早く、客の大半はその話題で飲んでいる。


「今日は串が売り切れたらドリンクラストオーダーにするからね。それから修道院に差し入れするおにぎりを作ろうと思う」


「任せてください!」


「お、アイリスはおにぎりを握るのが得意なのかな?」


「そうだよ、あれから自分でも作るようになったの。具は何にしたらいい?」


「そうだなぁ、握ってから味噌を塗って焼くか。それともつ焼きを入れてもいいかも。今のうち何本か分けておこう」


「私も修道院の手伝いに行くよ。女手はあった方がいいだろ」


「カレンさん、よろしくお願いいたします」






「賢輔が亡くなったって?」


 夜になって母ちゃんが家に来た。


「リリィ共々、遺体が消えたそうだ。インフルエンザで寝込んでいる間の出来事だから、遺体は見ていないんだ」


「そう…何が起きているのか、私にもさっぱり分からないよ。そもそも、リリィって娘は何者なの?」


「彼女は斡旋ギルドの受付業務をやっていた人なんだけど、縁あってうちの店の店員になってもらったんだ。ま、僕の婚約者の一人でもあったんどけど、賢輔の事が気になっていたみたいだったから、くっつけようかと思っていた矢先にこんな事に…」

 リリィだけではない、この世界で出会った人達の全てを知っている訳じゃない。


「大五郎は何だって?」


「まだこの件については聞いていないよ。これからだ。最悪、王都に行ってでも解決してみせるさ。王様とは知り合いだし」



 アンバーの夜は更けていく…その闇には何かが蠢いていた、しかし、それに気付ける者は誰もいなかった。

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