106話
「知らない天井だ……うひょう、言ってやったぜ……ゴホッゴホッ」
まぶたを開けると、どこかの部屋のベッドに寝かされていた。
関節痛が酷いが熱はそれほどでもない様だ。
「ケンジ、大丈夫かニャ?」
布団からだんごが出てきた。
「は?ゴホッ…だんご?」
「寒い寒いって言うからこうして暖めてたのニャ。ケンジのは呪いはかかってないみたいだったけど、魔法を使い過ぎてちょっとしか効かなくてゴメンニャ」
あれから何時間経ったのか分からないけど、一緒にいてくれたとは。
「僕のには呪いは無いのか…ホッとしたけど間抜けだな。こうしている内にアンバーで病人が増えていくかもしれないというのに」
「治癒魔法についてはボクが話しておいたから、ケンジはゆっくりと眠るニャ」
「ありがとう……、………」
眠りにつくと同時にベッドから出ただんごは、スラッとした人族の姿になっていた…様な………。
「弟くんはこのまま戻っちゃうの?」
「え?うーん、アンバーを観光したいかな。リリィさん、案内してよ」
言えた!言えたぞ!
リリィさんは兄ちゃんの婚約者?なのかな。スラッとした容姿に長い黒髪が似合う艶っぽい女性だ。少し前から俺にちょっかいを出してくる。からかわれているだけだと自分に思い聞かせながらも、やはり少しは期待してしまうのだ。
「それじゃあ商店街へ行きましょう」
そう言って腕を絡めてくる。リリィさんはどうしたいんだろう。
「リリィさんは誰にでもこんな感じですか?」
「違いますよ、賢輔さんだからですよ」
「名前、覚えてくれてたんだ…」
弟、弟くん、弟さん…そう呼ばれるのに慣れていたのに。
「ほら、ここは武器屋ですよ。賢輔さん、興味有るでしょ?」
ビームセーバーなんて物を造っているんだから、勿論、中世の武器も着になる。
「やっぱ切り裂くってよりは叩き斬る感じの武器ばかりか…日本刀でも持ち込んだら楽しそうだな。リリィさんは冒険者なんてやった事ないでしょ?」
「そうね、私は事務方でずーっときたから、武器を持ってモンスターと戦ったりした事はないわね。使ったとしてもせいぜいナイフくらいね」
太ももにナイフをしのばせたらセクシーだと思うなぁ。
「露店も多いんだね。あ、これなんか似合うんじゃないの?」
シルバーの鎖にブルーの石が付けられたネックレスだ。
「プレゼントしたいな」
「ありがとう、付けてくださるかしら?」
髪を避けてネックレスを付ける。
「そうだ、私も賢輔さんにプレゼントがしたいわ。お揃いがいいわね…同じ石のネックレス」
年甲斐もなく同じ物を贈り合う事に嬉しさを感じていた。
胸元に輝くブルーの石が、知らぬ間に紅く輝き出していたのに気付いた頃には、俺はこの世にいなかった。