105話
アンバーに戻ってきた僕と弟はリリィに相談した結果、三人で斡旋ギルドへ向かう事になった。
「で、この世界からあっちを見ると、あっちは異世界な訳だけど。通いでも泊まりこみでも大丈夫だそうだから。それで人数はどうすんの?」
リリィがテキパキと書類を揃えてくれる。弟に向けられる笑顔が眩しいぃっ!
「三人は欲しいかな」
「子供か?」
「「え?」」
「お似合いだと思うんだけどなぁ」
リリィは何故か弟をポカポカ攻撃していた。
「それじゃあリリィ、弟に街を案内してくれるかい。今日は口開けに間に合えばいいから」
こっそり弟にこっちのお金を渡す。まぁ、頑張れ。
二人と別れて久しぶりに修道院へ向う。
マリーナさんに会うのも久しぶりだな。エールやビール、アンバーホワイトに続くビールは出来ているのかな。
「お久しぶりです、マリーナさん」
マリーナさんは相変わらずキレイだけど、今日は何だか曇った表情をしてるな。
「どうかされましたか?元気がないようですが」
「いえ、大した事ではないのですが…風邪が流行しているようで、修道士が皆休んでしまってるのです。あ、とりあえず一ヶ月分のお酒は出荷可能ですから…」
「風邪ですか…もしかしてマリーナさんも?」
その時、彼女は崩れる様に前のめりに倒れ込んだ。
「おっと!」
咄嗟に抱きかかえると身体中凄い熱だ。
中にいた修道士に誘導され、彼女の部屋まで運ぶ。
「節々が痛い?」
「ええ、皆さんその様な症状で…」
これは単なる風邪てまはなく、インフルエンザなんじゃないか?素人判断は良くないが、多分そうだ。
スマホを取り出して弟にメールをする。あっちの世界からインフルエンザの薬を手に入れて欲しい、と。
そうだ、母ちゃんにも頼んでおこう。色々こっちで売っているんだから、手に入るかもしれない。
「治癒魔法とかはないのですか?」
「使える人間は国内でもかなり少なくて、アンバーにはいないと思われます…」
「困った事にこの病気はただの風邪ではないようです。一応、薬を手配しましたが、それまではなるべく外の人間には会わせないようにしてください」
「分かりました。ケンジさんにはお手数をかけます」
店に移動してだんごを呼び出す。
「何ですかニャ……はっ!まさか、一緒にお昼寝…」
「違います!だんごは召喚された勇者みたいなものなんだよね?」
「一応、そうですニャ」
ふふーんと胸を張り、腕を組むだんご。
「だんごは治癒スキルみたいなものは持ってないの?」
「そりゃあ、当然ありますニャ。だんごは召喚された選ばれし者ですから」
言いながらポーズをとる。だんごはもとの世界では年齢的にも幼かったのかもな。
「そうか!それじゃあ修道院まで一緒に来てくれ!」
「これは酷いニャ…手っ取り早く手前の人から見てみるニャ……」
見えないけどだんごだけに見えるらしいウィンドウを手で操作しながら、何やら魔法をかけているようだった。
「どうですか先生」
「うむ、ケンジくん。これは典型的なインフルエンザと思わせながらも、呪いの類が混ぜ込まれているニャ。レベル上げをサボっていたから、だんごには完治は今のところ無理ニャ」
「何ですと!サボってたってどういう事だよ!」
「猟師さんに助けられるまではモンスター狩りをやってたんだニャ。それでも、こっちに来てから一月くらいだったし、王様はろくにお金もくれなかったのニャ…人族じゃないと半端者扱いなのニャ」
だんごは悲しげに話す。
「そっか…怒鳴って悪かったね。住みやすくて人も優しいから気にしなかったけど、他の国は見た目の違いで差別があるんだもんな。エルディンガー二世も話せる男だったからこそ、この国なんだな」
酒、酒と言ってはいても、やる事はきっちりとやってるんだ。更には息子奪還も周りの部下が優秀なんだろう、長期に王都を留守にしても成り立つんだから。
「だんご、どうにかならないか?」
「とりあえず病気はある程度まで回復はできるニャ。呪いは教会に頼んでみるしかないかもしれないニャ」
教会…街の中心に小さいのがあったな。日本人だから気にかけていなかったけど。
「だんごはこのまま治療にあたってほしい。酒場の仕事は有給扱いにしておくから。僕はこれから教会に行ってみる」
「はいニャ。任せるニャ」
修道院から教会までは走っても少し時間がかかった。
この病気が他に移らないように祈りながら、教会には行かなくてはならない。ジレンマを感じながら走った。
「ケンジくん!慌ててどうしたんだい」
向かいの中華居酒屋オーナーのオハラさんが声をかけてくる。
「修道院が大変なんで、これから教会に行くところです。急ぎますんで!」
「何かあったら声をかけてよー」
オハラさんは後ろ手に組んで歩いて行った。その姿を見ていると一句詠みたくなるのは何故なんだっ!
「教会に着いた…ハァハァ……アレ?熱?…関節も痛くなってきた……」
僕は…そのまま意識を失った。