敵は全滅できますが凄腕商人には敵わないようです
ちょいグロです。
思いのほか余裕が無かったので今週は更新出来ませんので悪しからず。
──目測で接敵までだいたい200m
その間に何とかしなければ
魔力か…… 空気中からマナを取り込むんだったか? 呼吸したし大丈夫だよね? ……不安だ。でも、やるしか無い、キリッ。きっと美少女が助けを求めているはずだから……!
黙想の要領で丹田(へその下あたりにあるとされる)に意識を向けてみると何か体温とはまた違った温度をもつ液体の様なものが感じられた。あれ? 体中を巡ってるんじゃなかったっけ?
まぁいい、細かいことは、今はポイだ。緊急事態だからな彼女ら(願望)にとって。
ゆっくりと血管を意識しながらそれが体を巡っている想像をしてみると、
「──ッッ!?」
は、速い、速いから! いいい、いきなり走るスピードが速くなった。50mを3秒ぐらいで駆け抜けた。お父さん、お母さん、俺は風になったよ。
おかしいよね……!?
いくら何でもこれは無いって!? ねぇ!? (ちなみに地球では50mは7.5秒だ)よく体がついてきたな。お天道様もびっくりだ。明日は筋肉痛に違いない。憂鬱……あ! 回復魔法の練習が出来るじゃん!
ポジティブゥーー!
そこ! 笑うな。そうでも思わないとやってけないのさ……
想像で魔法使えるんだったな。なら、もう怖いものはない。初陣は華々しく飾りたいのでインパクトがあり、尚且つ見た目が派手な雷魔法でも使ってみるか。なんか吹っ切れて来たぜ。
敵の数はざっと30人くらい。なんとなく詠唱はしなくても使えそうな気がしたので(毎日の妄想の賜物かな? 神なりのチュートリアルとか? ……無いな。あいつじゃ無理だろ)、30本くらいの雷の矢を想像すると、俺の後方に全長70cm、柄の直径が5cmぐらいの雷の矢が展開されたのがちらりと見えた。
──接敵まであと50m
ちょっと早いかなーと思いつつも、馬車を護衛している人達の様子が芳しくないので打ってしまおうかな。ちなみに、護衛の人達は装備がバラバラで、いくつかのグループに分かれて戦っている。……ふむ、そのグループのなかでも役割分担が出来ているみたいだな。もしかしたら、冒険者かもしれない。
よし、もういいかな。ワクワクしてきた。
「GO!」
そう言いながら馬車を襲っている人達に右手の人差し指をむけた。バリバリッと微かに音をたてながら初めての魔法は猛スピードで突っ込んでいく。初めてにしてはなかなかの出来ではないだろうか。
敵が密集していたおかげ全滅させるのに数秒と掛からなかった。
が、密集していたせいで体のいたるところに穴があいている。いわゆる、蜂の巣状態だ。あんまりいい景色とは言えないね。今度から使う魔法も気をつけなきゃね。
ある男は腹に当たったようでそこから臓器がこぼれ出ている。あ、あれ小腸かな? 小腸って模型のイメージ通りに綺麗に収まっている人ってあんまりいないんだって。はい、智成の豆知識でした。
また、ある男は頭部が半壊し脳漿が吹き出している。某吸血鬼が記憶を掘り起こす時に指を突っ込んで掻き回してたけど、実際に見ることになるとは思わなかったな。あ、脳漿の話だからな? ほじくり返すところはさすがの俺も見たくない。それをみたりやった、『友達をつくると人間強度が下がる』とか言ってた、女の子に甘いあのお人好しはどんな気分だったんだろうね。
この人達はまだましな方だろう。文字通り蜂の巣になっている死体もそこかしこに散乱している。一気にむせ返るような血の臭いがあたり一面に広がる。早く換気したい。あ、ここ外だった。浄化魔法とか勉強ないのかな? いずれにせよ、はやく始末しないと野生の動物がよってきそうだな。あ、いや魔物になるのかな。
それはそうと、呻き声はまったく聞こえてこない。どうやら即死だったようだ。いい仕事したな。……そう言えば確認全くとらずに一方的に攻撃したけど褒められた行為ではないよな。この場合は立場がハッキリしてたから大丈夫だろうけど。慎重に行動して損はあるまい。
だいたいの異世界転移や転生の小説では、主人公が抱える罪悪感のようなものはまっまたく湧いてこなかった。ここで殺らないと誰かが殺られるし、次に殺られるのは自分かもしれないのだ。それはそれでなんか感じるはずなんだがな。
──まぁ、そもそも人間ごときにさして興味も無かったのだが。
はっ!? だから周りに人がいなかったのかな? 仕方ないよね。しょ、小説に夢中だったし。夢中だったんだよ。
自業自得っちゃ自業自得か。ここでは気を付けよう。異世界に来てまでボッチになってしまった暁には心がガラガラと音を立てて崩れ落ちるに違いない。
──馬車まで10m
ここで一旦立ち止まる。それを待っていたのか、突然、敵が居なくなったことに呆然としていた冒険者たちが動きだした。一際体が大きい冒険者が声を掛けてくる。どうやらこの商隊の護衛のリーダーのようだ。
「貴殿がサンダーアローを打ってくれたのかな?(いや、あれはシャベリンか?)ご助力感謝する。見かけない顔だがどこからやってきたんだい?」
(そういえばこの世界のこと何にも知らねぇ、嘘吐いてバレたら厄介だしなー)
ということでそんな言葉は無視して、怪我が治る想像をしながらパチリと右手の指をならした。何気に使いこなしちゃってる俺SUGEEEEEEE! 今更かよ。
光の粒子が馬車を中心にドーム状に広がり 負傷した場所へ付着する。おーおー、案外上手くいくもんだな。
お前ら崇めたてまつれっ! 嘘です。しなくていいです。対応に困るから。
「な、なにを?」
リーダーの困惑は尤もだ。
「け、怪我が治ってくで」
「ありえねぇ、古傷も綺麗さっぱりなくなりやがった」
「もしや特級回復魔法の聖なる光じゃないかしら?」
「は?詠唱は? そもそも1人で出来る魔法じゃないだろ? もしかして魔法陣とか? どんな大規模な魔法陣だよ? しかも王都でさえも開発されてないだろ? 俺が時代おく──」
「──ぅうるせぇーー! 1人でどんだけしゃべる気だよ!」
リーダーがキレた。至極もっともである。
【〈雷魔法〉〈回復魔法(光)〉〈俊足〉を習得した】
突然、頭の中に無機質な言葉が響いく。この無機質な声、懐かしい……戦闘が終了したと判断されたからかな?
懐かしい……? この世界来たことないし、ましてや……
「ハァーーーーー」
思わずため息が出てしまった俺は悪くない。そのなかには色んな意味が込められているが。スキル持ってなかったのに使えてしまったこととか、たった1回使っただけで獲得したこととか……
((((初対面の少年に呆れられた……))))
一斉に肩を落とす冒険者たち。そんな彼らを尻目に馬車を眺めていると突然中から50代と思われる男性が出てきた。体は決して大きくはないが引き締まっており、銀髪をオールバックに整え黒い燕尾服を着ている。ダンディな雰囲気をこれでもかと醸し出しながら、予想を裏切らずこれまた渋い低音ボイスで聞いてきた。
「君がこいつらを殺ったのかね?」
いまだにプスプスと煙を上げている死体を指さした。
「あ、はい」
「ふむ、取り敢えず中にはいれ。改めて礼を言いたい。」
「いくら何でもそれは危険なのでは? 何一つ彼のことを知らないんですよね?」
親指で俺を指しながらリーダーは正論を述べた。正直俺もこの場を離れたい。そして早く魔法の検証をしたい。
「この少年は我らを傷つけることはせんだろう。わざわざ敵対するのにあんな大規模な回復魔法は使わんだろう。」
「ぐっ、お、おっしゃる通りです」
そう言ってダンディなおじ様は俺を見てから馬車に視線を向けた。入ってこいって意味らしい。
なんとなく嫌な予感がするが入るしかないだろう。覚悟を決めて馬車のなかに入った。
「改めて自己紹介といこうか。私はロレンティオだ。ローレン商会の総取締役だ。主に香辛料を始めとした食物を取り扱っている。」
そ、総取締役……! お偉い方じゃん。求めてないよ。テンプレは? 美少女は? 現実逃避はここら辺でやめよう。
目線で自己紹介を促してきた。俺の番のようだ。どーすっかなー。よし、適当に誤魔かそう。
「トモナリです。さすらいの旅人で田舎から出てきたばかりです。」
一気に喋ってごまかす……!
「嘘はよくないよ。トモナリ君。どこら辺がさすらいの旅人なのかな? 服も綺麗なまんまだし、そんな服は見たことも聞いたこともない。そもそも荷物はどこだい?」
やったー、誤魔化せてなーい。さすがに無理があるか。これは不味い。非常に不味い。“勇者”(?)だとバレたら厄介ごとに巻き込まれるぅー、いやバレてるのか? もう既に。
「君、この世界の人間じゃないだろう?」
「…………」
ほら、やっぱり
冒険者は違和感を覚えてなかったのになぜバレたんでしょうね?