プロローーーグ
グラオザムワールドへようこそ!
──ジリリリリリリリッッ!!
奴が俺に早く起きろ、と催促してくる。ふむ、そもそも何故起きなければならないのか。──ああ、勿論分かっている。良い大学に行って将来をより明るいものへとするために、学校へ向かい、友と共に勉学に明け暮れるため、だろう? 言ってなかったが俺は、現在普通科の高校生だからな。
俺が語りたいのはそういうことではない。何故、無機物の奴に苛立ちを感じるような電子音で起こされなければ、否叩き起こされなければならないのか。これが女の子の澄んだ柔らかな声であったならばまた違った感想が溢れるのだろうが、そんなことはまず有り得ない。良くも悪くも大して取り柄のない、平々凡々な、それこそ現代日本にありふれた一般人の1人に過ぎないのだから。
それに、(ry
つまり(ry
略。
略。
略。
略っ!
──はい、この間、十秒。
ここまでツラツラとほとんど意味の無い言葉を羅列してきたが、本来俺は寝起きがいい方である。調子がいい時は奴が鳴る1分前に起きるくらいには。
だから取り敢えず、忌々しい電子音を響かせる、あの物体の頂点部分を叩き、即座に黙らせる。いい加減、ストレスメーターの上昇を止めなければならない。
俺は、布団をまくり上げ上半身を起こして思った。また、今日も憂鬱な1日が始まろうとしている、と。
カーテンを開け、外を見ると案の定シトシトと霧雨が地面を濡らしていた。あー、憂鬱だ。
……ねぇ、知ってる? 雨の日って……記憶力低下するらしいよ。智成の豆知識でした。
──現場からは以上です。
とうとう頭がどうにかなってしまったのか? 普段の俺なら、こんなやつを見かけたら、精神科への受診をお勧めしますって言うのにな。はは。
何はともあれ、着替え等の諸々の朝の支度を終え今崎 智成は家を出た。
俺は少しばかり妄想癖がある至って普通の、それこそどこにでもいる男子高校生である。先ほど述べた御託の通り。そう、例え毎日平凡な生活に嫌気が差して、暇があるごとに異世界へ思いを馳せていても。極々平凡である。平凡ったら平凡なのだ。
準備を終えた俺は、教科書やらなんやらが詰まったリュックサックを背負い玄関へ。最近はこの家で一番初めに家から出るのは俺なので見慣れたドアの鍵とチェーンを外し、朝早くから弁当を用意してくれる母親に行ってきますと一言、言って家を出た。
「はぁー 疲れた」
これがいつも教室の自分の席に着いた時にでてしまう、言葉である。特に意味はない。
まぁ、疲れたっちゃ疲れたんだが。なんてたって家から学校まで1時間30分もかかるんだから。そのうち、1時間は自転車に乗っていたりする。往復で2時間。日によっては、自宅での学習時間よりも、自転車に乗っている時間が多い、っていう。なんとも本末転倒な学校生活を送っている。
ちなみに残りの時間は電車の中だ。だから、暇な時間(?)が多く、ついつい妄想の世界に旅立ってしまう。そのことについて、後悔も反省もしたことは無い。(いや、しろよ)
──キーン、コーン、カーン、コーン♪
あーあ、また、いつも通りのつまらない授業が始まってしまった。今日の1時間目は現代文だ。気さくで面白い先生(男)なのだが……残念ながら授業はぶっちゃけ面白くはない。そんなことを考えていると……案の定──
「今崎、この時、李徴はどんな気持ちだったかわかる?」
指名されてしまった……。まあ、国語は案外得意だったりするので問題ない……はずだ。
ちなみに今は、『山月記』をしている。知りたい人はググれ。説明するのが面倒い。……いかん、気がたっているようだ。
「えっと……──ッ!」
答えようとした瞬間、床1面に青白く光る、判読不可能な文字が広がった。所謂、魔法陣と呼ばれるモノだろう。
来たよ、来たよ来たよ、来ちゃったよ! キタコレ、キタコレ!
これは今流行りのクラスごと異世界に召喚されるパティーンじゃね?
そんなことを考えているうちに、視界一面に眩い光が広がる。
「戻ってこーい」とか聞こえたがきっと気のせいだ。うん。一抹の不安がよぎったが気のせいだ。きっと。多分。そうだよね……?
次第に閉じていた瞼から入ってくる(可笑しいと思うがそれぐらい強烈だった。)光が収まってきたので、恐る恐る目を開けると、周りには王様っぽい人や王妃に王女、王子っぽい人が跪いていた。いかにも高貴な雰囲気が漂っている。
周りには居るであろうことが予想出来る、騎士やメイドさんなど、誰もいない。ただ、足元に未だに青白く光る魔法陣が広がっているだけである。
「…………。って俺だけかよっ!?」
思わず叫んでしまった俺は悪くないと思う。あの展開はクラスごと転移するのがテンプレだろうに……。