男と新しい部屋
お祖母ちゃんも大変だなって思って見てたら、サラさんが街で見ない顔の俺に気付いたみたいで話しかけてきた。
「あら、見ない顔ね。旅人さん?わたしはサラって言うの、よろしくね。」
「サラさんですね。俺は旅人ではないけど秀介って言うからシュウって呼んで下さい。」
「見たことない服装だから旅人さんかと思ったわ。あっ、またお客さんね。」
またお客様が来たみたいでサラさんはカウンターの方に歩いていった。サラさんは接客姿を見ただけだけど、実際話してみて明るくて話しやすかった。ベルさんとアルさんの孫なのか笑顔が凄く似合ってるから、接客業に凄く向いている様に思える。
「そう言えばシュウ。貴方今日はどうするの?」
サラさんの接客姿を観察していた時、隣に座っているベルさんが問いかけてきた。
「今日?何かありましたっけ?...あっ、そうですね。どうしましょうか?」
(そうだ?!ベルさん、アルさんにサラさんと普通に話してたから気付かなかった。今日から寝る場所や食事とかどうしよ。)
今の状況は家無し、宿無し、食料無し、財布はあるが通貨は違うので使えないから金無し。何にも無し状態でした。
「アルとも話したんだけどね。今日は店の二階に一室使ってない部屋があるから、そこの部屋を使いな。これからの事は今日からまた考えたら良い。何かの縁だからね、追い出したりなんかしないよ。」
凄く焦って考えた時に言って貰えたこの言葉...凄く嬉しくて自然と涙がこぼれて来ていた。ベルさん、アルさんには感謝しなきゃ、そして俺でも何か返せるものを考えなきゃ。
「あ、ありがとうございます。出来るだけ早く負担をかけない様にしますね。」
「貴方はバカだね。負担になるなら置いたりしないよ。」
ベルさんとアルさん、接客が終わってカウンターにも聞こえてたみたいでサラさんは呆れて小さく笑った。それでもお店の、この人達の暖かさは体に巡っていくのを感じていた。
「この部屋じゃ。一応、定期的には掃除しておるからそこまで汚れてないと思うが...」
「汚れてませんよ。全然綺麗です。いいんですか?」
お店の入り口横にある階段を上がって一番奥の右、俺が案内された部屋は掃除がキチンと出来ているのか綺麗だった。部屋は日本で言う六畳位の広さがあり、すでに机、椅子、本棚、ベッドと殺風景ではあるが揃っている。
「わしはお前さんが使う毛布でも探してこようかの。...シュウ、急いで出ていこうとせんでもいいからの。わしもじゃがベルも年甲斐もなく、別世界のお前さんと知り合えてワクワクしとる。サラもじゃし、ミリーはなついとるしの。」
魔法などもある世界...日本から見たら刺激的な世界だがこちらから見たら普通に感じてしまう。俺が来たことで、少し刺激的になってしまっている。ただ、それが新しい冒険をする時の様な感覚になり人間は求めているのだろう。
「アルさん、ありがとうございます。」
「良いってことじゃよ。夕飯には呼びに来るから少し休むんじゃよ。」
アルさんは部屋の戸を閉め店の方に降りて行った。ベッドに腰掛けた俺は、今日あった色々な事を振り返り睡魔に負けまいと思いつつ寝てしまっていた。




