男とお婆さんと空飛ぶ猫
チリン…チリン…。
入口の戸に付けているベルがお客様のご来店を心地よい音色で教えてくれています。
「あっ。いらっしゃいませ。」
俺はベルの鳴った方を向き、俺もベルの音に負けない笑顔で…
「ようこそ。ベルサウンド雑貨店へ。」
本日の一人目のお客様をお出迎え致しましょう。
(俺もこの生活に慣れちゃったなぁ、あの時からは考えれないよ。さて、今回のお客様は何をご所望なので…)
半年前…
(遠くで鐘の音が聞こえる…)
黒髪黒目の20代半ばの男が、花々が咲く道沿いの草の上で目が覚めた。
「…ん…此処は…」
男は段々と頭がすっきりして冴えていき、そしてこの場所に心当たりが無い事に気付きだした。
辺りを見ても今まで一度も見た事が無い光景がいっぱいで、やっと冴えてきた思考がまたゆっくりに…
(え~…ここ、何処なんだ。確かに俺の住んでたとこ都会じゃなくて田舎だったけど。)
思考がゆっくりでも、男は周りの情報を得ようとキョロキョロしている。
(いやいや…住んでた場所は道を馬車が走ってないし、帯剣した騎士みたいな人もいなかったし、空飛ぶ猫とかもいないし!!)
猫が男を気に入ったのか、混乱している男の足元に羽を畳みながら近付き…
「にゃ~」
無意識に猫?羽があるけど猫を撫でてたら後ろから、お婆さんの声が聞こえてくる。
「貴方を気に入ったのかしらね」
お婆さんのいきなりの声に内心びっくりしながら勢いよく振り向いていしまった、そこにはブラウン色の髪のお婆さんが立っていた。
「あらあら、そんなに警戒しなくてもいいのよ、貴方に危害を加えようとしてる訳じゃないの。そこにいるミリーちゃんに付いて来ただけだから。」
男はいきなりで驚いてしまい、かなり警戒した顔になっていたのかもしれない。
お婆さんはそれを察してくれたのか…笑顔と優しい声で話してくれているんだと少し嬉しかった。
「私の名前はベルというの。そこにいるのがミリーちゃんね」
「あっ、すいません。俺の名前は秀介って言います。呼びやすい様にシュウとでも呼んで下さい、ベルさん。」
ミリーちゃんねって紹介されるまでずっと撫でてました。
「シュウの方が呼びやすいわね。この町では見ない服装と顔だけど旅人なのかしら?」
「俺もどうして今ここにいるのか分かってないんです。それに空飛ぶ猫や帯剣した騎士なんて俺が住んでた日本には居ないですよ?」
「二ホン?って大陸か国の名前かしら?聞いた事が無い名前ね。シュウの服装も持ち物もこの辺では見た事無いわ。」
秀介の格好は昨日の夜のままでした。スーツに革靴、ビジネスバックのサラリーマンスタイル。
バックの中には仕事で使用していた書類や電卓に筆記用具と日本でなら手に入る物ばかり。