06 物資調達
少しずつ移動しながらも必要な物をいつでも調達できるよう、何かを見つける度にチェックは入れてある。物を調達することは意外に大変では無かった。
「何か、いつも火事場泥棒してるみたいで気が引けるんだよね……」
申し訳なさそうにアキラが言う。
「仕方ないだろ。払う金も相手もいやしないんだし。結局はここにある物もみんな、使ってやる人間がいなけりゃただ朽ちていくだけだ」
二人は女性物の服の売り場にやってきた。
「ほら、何か好きなの選んでくれば?」
ユウトはアキラを促した。
「え、オレが選ぶの?」
「当たり前だろ、自分の服なんだから」
アキラは正直困惑した。
「だって女物なんて分かんないし…あ、ユウト選んでよ。デートとかでそういうのあったんじゃないの」
「ありはしたけど、いつも適当だったからな……」
「ひっどいユウト、ちゃんと選んであげなよ!」
「いや、あれだぞ? 女って『どっちがいい』とか聞いてくるくせに、結局はこっちの意見なんて聞かないんだから。考えるのが馬鹿らしくなるっていうか――」
真剣に言い返している自分に、はっとなった。
(いや、何を真面目に話してんだ俺は?)
「とにかくあれだよ、女物の下着だけはちゃんと調達しとけよ。その……ブ、ブラとか」
一番重要な品物の名前を、勇気を出して言った。
「え! オレが着けるの?」
「当たり前だ、俺が着けたらただの変態だろが」
「だって、分かんないよ、もうどれでもいいよ」
「どれでも良くない! ちゃんとサイズがあるんだから、試着して合わせろよ」
「そうなの? じゃあ……順番にこれから?」
そう言ってAカップのブラをつまみ上げた。
「いや、んなわけないだろ。お前のはどう見てもD以上はあるって」
「へーそうなんだ、そんなこと分かるなんてユウトすごーい」
「…………」
正直、褒められても嬉しくはない。
すると突然、アキラが目の前でシャツを脱ごうとし出した。
「うわわ、お前なにやってんだよ!?」
思い切り動揺し、慌てて止める。
「え、だって脱がないと着けられないじゃん」
「馬鹿! ちゃんと着替えるとこがあるだろーが!」
そう言って、アキラを試着室へと押し込んだ。
(だ、だめだ! あいつ『女』になった自覚が全く無い! すっげー疲れる……)
大きく息を吐くと、頭を抱えてしゃがみ込む。
「ユウトー」
アキラが試着室から顔を覗かせる。
「何だよ……」
ユウトは気怠そうに顔を上げた。
「コレ、着け方が分かんないんだけど……」
「…………」
そして絶句した。
結局、試着室に一緒に入って着けてやるはめになった。
(確かに、女ってよくこんなもん自分で着けられるよな。しかし何だって俺がこんな……)
そんなことを考えながら、なるべく前面の鏡は見ないようにした。
「あ、これが丁度いい感じかな?」
(え…ッ! す、すごいなFかよ……)
ユウトは平静を装いながら眼鏡を直しつつ、心の中で密かに動揺した。
後は適当に、実用的で動きやすそうな服をアキラは数点選んだ。
(もっと女らしい可愛いのとか、そういうの着てる所も見たかったよな――)
ユウトは自分でも気付かない内に、気分が彼氏モードになっていた。
店を出ると、アキラはくるっと店舗に向かって頭を下げた。
「ありがとうございました。服、勝手に持って行っちゃってごめんなさい」
「誰も何も言わないのに、相変わらずクソ真面目……」
けれど、ユウトはアキラのそんな所が好きだった。
中身は前と何の変わりもない。
ただ『女』になったというだけ。
それだけで、アキラの行動の何もかもが新鮮に感じた。
(だいたい『男』のアキラを可愛いとか思ったこと無いし。女子からはよく言われてたみたいだけど)
もし、アキラがこのまま『男』に戻らなかったら……自分はどうすればいいのだろう。
(もう少し様子を見てみないことには何とも言えないけどな――それにしてもあいつ『女』のこと知らなさすぎだ、先が思いやられる……)
予想通り『女』の自覚も教養もないアキラに、ユウトは毎日のように振り回された。
アキラが『男』に戻る気配は一向になく、『女』になってからもうすぐ一ヶ月が過ぎようとしていた。