表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/45

エピローグ

 ユウトの持ち帰った桜の枝は、順調に成長を遂げて、今では背丈十メートル程の樹へと成長していた。

 だが、四季のないこの世界で時期を迷っているのか、その枝には未だ花を咲かせたことがない。


 そんな桜の樹の側には、小さな家が建てられていた。

 樹の下では、犬と戯れる子供たちの元気な声が響き渡っている。

 その様子を、二人は小さな家の窓から眺めていた。



「相変わらず、あいつら激しく遊ぶなー。毎日の洗濯が大変だって……」


 アキラが溜息を付きながらぼやく。


「こいつらが大きくなったら、その内もっと大変になるぞ」


 ユウトの目線の先には、二人の小さな赤ん坊がすやすやと眠っている。


「そうなんだよね。しかも五人全員男って……ホントに考えただけで目眩がする」


 そう言いながらも、アキラのその顔は至極幸せそうだった。


 

 あの桜の巨樹に別れを告げてから、五年の月日が流れていた。

 現在は、教授やキャシーたち、その後出会った生存者たちと、小さなコミュニティーを形成して暮らしている。


 ユウトは望み通り、現在は教授の下でこの世界の謎を解くべく、研究に明け暮れる毎日を送っている。

 アキラはそんなユウトと教授の身の回りのサポートに回っていた。


 そのような中で、二人は正式に結婚をして本当の家族となった。

 それが、自分たちの幼い頃からの夢だった。

 現在は五人の子供に恵まれ、賑やかな毎日を過ごしている。



「キャシーさんのとこは、この間三人目でやっと女の子が生まれたよね。いいなー」

「数ではウチが勝ってるぞ」

「いや、別に競争してる訳じゃないから」


 キャシーは五つ子の旦那全員と結婚して、一妻多夫という家族構成になっている。


 そしてユウトは未だに五つ子の区別が付いていない。

 三人の子供の父親が、どの旦那の子供かなんて分かる筈も無かったが、全く問題無くみんな仲良く過ごしているようだ。



「それにしても、まさか自分がこの歳で、しかも五人の子持ちになるとは思いもしなかったな」

「何言ってんの。オレなんか、まさか自分が子供を産むなんて夢にも思わなかったっての」


「確かに……」


 ユウトは少し同情するように頷いた。


「そう言えば、お前、小学生の頃『子供は絶対十一人欲しい!』とか言ってただろ。サッカーチームを作るんだとか言ってさ。俺ホント、お前の奥さんになる人は可哀相だなー、とか思ってたよ」

「そ、それは、子供の考えることだから! それにその頃は自分も男だった訳だしさ」


「ふーん。俺は別にいいけど? 十一人作っても」

「ええ、なにそれ? オレのことは可哀相だとは思ってくれな――わっ!?」


 そう言いかけて、アキラは急に窓際から見えない死角へと引っ張り込まれた。

 そんなアキラをユウトは後ろから抱き締めると、その耳元で囁いた。


「まあ十一人とは言わないけど……もう作っちゃおうか、六人目。何だったら、女の子が出来るまで頑張るとか?」

「な……っ! や、やっぱユウトって、鬼だ……」


 アキラがユウトの方を振り向いて言うと、その唇にユウトは自分の唇を重ねようとした。



「あ――ッ! お父さんとお母さんがまた『らぶらぶ』してる――!」


 その声に過剰に反応した二人は、ばっ! と慌ててお互いの身体を離した。


「ア、アキト! お前なぁ……」


 見ると、長男のアキトが窓枠に身体を突っ込むようにして、こちらを覗き込んでいる。

 初めての子供に、二人はユウトの父親の名前を付けていた。


「チューしてたぞ、チュー」


 兄は弟たちに律儀に報告する。


「ちゅー?」

「ちゅー! ちゅー!」


 まだ幼い双子の弟たちは、まるでネズミのように連呼する。


「こ、こら、アキト! 変なこと教えるな! それにまだチューはしてない!」


 アキラはそのまま窓から外へ飛び出して、アキトたちを追い掛け出した。


「お、おーい、アキラ――?」


 ユウトは一応声を掛けてみる。

 子供たちは「きゃーきゃー」ではなく「ちゅーちゅー」と蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。


 犬のチビも一緒に逃げ回る。

 もう『チビ』とは呼べないサイズに成長していたが、それが名前なので仕方がない。

 ちなみに、ゴールデンレトリバー程のサイズはある。


 急に周りが騒がしくなって、寝ていた筈の(これまた双子の)赤ん坊たちも泣き出した。

 ユウトは慣れた手つきでひょいと二人を抱き上げると、あやしながら窓の外を見る。


「あーあ、ミイラ取りがミイラになっちゃって。とうとう一緒にサッカー始めちゃったよ」


 子供たちと楽しそうに遊ぶアキラを見て、ユウトは眼を細めた。



 五人の子供たちの胸には、生まれた時からそれぞれ、アキラと同じ赤いアザが付いていた。

 子供たちはまだ、自分の母親が元々は『男』だったことを知らない。


 部屋の片隅に飾られた写真立てには、あのアルバムから抜いた一枚が飾られているが、


『ねえ、この人だれ?』


 と聞かれても、


『内緒。大きくなったら教えてあげるよ』


 といった感じで、アキラがいつもごまかしている。

 ユウトには、アキラが半分楽しんでいるようにも思えるのだが。




「ユウト!」


 アキラが息を切らせながら、窓際に戻ってきた。


「あいつら、かなり走り回らせといたから、疲れて夜はすぐ寝ると思う。何にしても、子供が寝てからじゃないと無理でしょ?」

「ああ……まあ、うん。そうだよな」


(どうせこいつも、疲れてすぐに寝ちゃんだろうなあ)


 ユウトはあまり期待しないように心掛けた。



「こっちはまた寝たんだね。ありがとユウト、すっかりイクメンだねー」


 アキラは愛おしそうに、ユウトの腕の中で再び眠り出した子供たちを見つめた。


「この子たちは、一体どういう道を選ぶんだろうな。このアザに、どう人生を左右されるんだろう」


 ユウトの言葉に、アキラは即答する。


「大丈夫。みんなきっと後悔しない道を選んでくれるよ。だって、ユウトとオレの子供たちなんだから」


 そう言ってにっこりと笑う。

 アキラが言うと妙に説得力がある、そう思った。


「うん、そうだな」


「ね、ユウト、一人預かるよ」


 アキラはユウトから子供を受け取ると、静かに歌をうたい始めた。

 それはあの日、あの桜の前で最期にうたった歌だった。


 その澄んだ歌声は風に乗って、外で遊んでいる子どもたちの耳にも聞こえていた。



「あ、お花だ! お花が咲いてるー!」



「えっ?」


 子供たちの声を聞いて、ユウトは窓から身を乗り出した。


 いつの間にか、桜の枝には蕾が幾つも付いていた。

 あの日と同じで、次々と蕾を膨らましてはぽんぽんと花開き、あっという間に満開となった。


「わぁーっ! お花がいっぱいになったー!」


 子供たちからはそんな歓声が上がっている。



 あの巨樹に比べればスケールこそ小さいが、その姿はどこか誇らしげだった。


「何だ、今まで意固地になって咲かなかったのってそういうことか。お前がその歌をうたってくれるまで待ってたんだ」

「そう言えば、この歌はあれから一度も歌ってなかったかも。最近は子守歌とかそんなのばっかりで。何か、悪いことしちゃってたね」


「やっぱりあいつと同じで、お前のその歌が好きなんだな」



 満開になった桜の樹を眺めながら、お互い十八になったばかりのあの日のことを、ユウトは鮮明に思い出していた。



「なあ……あの時の約束、もう一度しようか」


「え?」


 ユウトは唐突にそう言うと、空いた片手でアキラの指に自分の指を絡ませるようにして、ぎゅっとその手を握った。

 アキラは思わず顔を赤くして、上目遣いにユウトを見る。

 そんなアキラの目を、ユウトは真っ直ぐに見据えて言った。


「これから先も、ずっと一緒にいような……アキラ」


 アキラはその視線に耐え切れなくなって、窓の外へと目を逸らした。

 自分の視界で、ちらちらと舞い散る花びらが滲んで見える。


「何か……相変わらずキザなんだよなぁ、ユウトは」

「そう言うお前は、相変わらず泣き虫だよな」


 その言葉通り、アキラは涙腺が緩むのを止められなかった。

 ぽろぽろと涙が勝手に溢れてくる。


「だって嬉しい……オレも……これから先もずっとずっと、ユウトと一緒にいたいから……」


 言葉を詰まらせながらそう言うと、アキラもその手を弱々しく握り返した。


「じゃあチューしようか、さっきしそびれたから。あいつらが桜に夢中になってる間にさ」


 半分ふざけるように言いながら、ユウトはアキラに自分の顔を近づける。

 その顔には、あの時と同じ満面の優しい笑みが浮かんでいた。


 そんなユウトの顔を見つめるアキラの口から、あの時はなかなか言えなかった言葉が自然に紡ぎ出される。


「好きだよユウト……愛してる」

「俺も。愛してるよ、アキラ」


 ユウトは唇が触れ合う直前に、もう一度小さな声で囁いた。


「俺に家族を与えてくれて……本当にありがとう」


「っ……うん……」



 お互いの気持ちをその唇に乗せて、二人は長い口づけを交わした。


 それを見計らったように、突然桜が激しく舞い散りだした。

 子供たちは、その花びらを追い掛けるのにますます夢中になる。


 それは、あの時の巨樹に負けないほどの見事な桜吹雪だった。



 あの日の桜吹雪は、命の終わりを意味する桜の散華。


 だが、これは違う。

 時間ときを刻み始めたばかりのこの桜は、この家族を見守りながらこれから何度でも花開く。



 それは彼らが歩むべき新しい世界への、優しい始まりの合図――




 ~終~

この物語はここで完結です。

最後まで読んで頂いた皆様に、心から感謝いたします。

本当にありがとうございました!

また機会がありましたら、番外編などでお会いできればいいなと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
E★エブリスタ
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ