34 新しい仲間
あれから、キャシーたちも教授の研究所で同居し始めた。
一人と二匹の犬だけだった研究所は、一気に賑やかになった。
話し相手が増えて、おしゃべり好きの教授には嬉しい限りだったようだ。
現在はキャシーが動けないアキラの代わりに、みんなの身の回りの世話をしてくれている。
五つ子もそれぞれの得意分野で活躍してくれていた。
キャシーと五つ子は、いわゆるニューハーフの集うソレ系の店で知り合ったらしい。
性別がどうとかでは無く、その人柄に惚れたのだと五人は口を揃えて言う。
当然『キャサリン』と言うのは、店での源氏名であって本名では無い。
そんなキャシーは本名を隠し、五つ子にすら断固として言おうとはしなかった。
親に勘当された時に、その名は捨てたのだと言う。
考えや生き方は人それぞれだ。
そうユウトは考えているので、それ以上の言及は避けた。
無論、気にならないかと言われればそれは嘘になるのだが。
五つ子である彼らは『火野グループ』という建設会社の御曹司だった。
歳は二十七歳と言う、まさに働き盛りの年齢だ。
親の事業を引き継ぐべく、修行という形で子会社や現場での仕事を主としていたらしい。
その体格を見れば納得の、いわゆるガテン系である。
趣味の高じた通信や電気系統などにも詳しい。
そして何より、五人全員がキャシーの彼氏なのだった。
キャシー曰く、
「それぞれ違う持ち味があるんだもの。誰か一人だけを選ぶことなんて私にはム~リ~!」
――らしい。
お互いがそれで納得しているので、特に何を言う必要もないだろう。
そして、やはりユウトにはまだ五人の区別が付かずにいた。
いや、もしかしたら永遠に分からないかもしれない。
しかし、とにかく全員アクが強い……強すぎる。
人付き合いがあまり得意でないユウトには、少々難があった。
「アキラだったら、そんな状況も上手くかわせたりするんだろうけど」
ベッドで眠るアキラの傍らで、その手を握りながらユウトがぼやいた。
ユウトにとって唯一のオアシスであるアキラは、未だ動くこともままならないでいた。
◇◆◇
あれから一週間以上経っていたが、アキラの状態はなかなか安定しなかった。
傷のせいでしばらく高熱が続いた上に、眠ると決まって悪夢にうなされ『男』に戻ってしまう。
気持ちが落ち着くとまた『女』に――その繰り返しだった。
錯乱したアキラからは目を離すことが出来ない。
ユウトはほぼ付きっきりでアキラの看病をしていた。
コンコンコン――
部屋をノックする音に反応して、ユウトはその顔を上げた。
ガチャリとドアの開く音がする。
「どう? アキラちゃんは大丈夫? さっきまた錯乱してたみたいだけど」
部屋に入って来たキャシーが心配そうに聞いてきた。
「あ、はい。今は……大丈夫です」
『女』のアキラがユウトの腕の中で、その胸にすがるようにして眠っていた。
その表情は限りなく疲れ切っている。
「前に俺の鼓動を聞くと落ち着くって言ってたから……こうしてると少しは安心するみたいです」
そう言うユウトの顔にも疲れの色が見える。
「でもこの様子じゃアキラちゃん、間違いなくトラウマになっちゃってるわね……このまま性別が安定しないんじゃ、正直心配だわ」
キャシーが溜息をつきながら気になることを言った。
「安定しないと何か問題があるんですか?」
アキラをベッドに戻しながら、ユウトがこれ以上はやり切れないと言った表情で聞く。
「性転換って、本来とても危険なものなのよ。そもそも男と女なんて骨格から何から全然違うんだから。それが短期間で何度も作り替えられえたりしたら、そりゃあ体にかかる負担だって尋常じゃないわよ」
「それじゃあ早く何とかしないと、こいつは心だけじゃなくて身体まで壊れてしまうってことか……」
PTSD――心的外傷後ストレス障害――
過去のトラウマが引き金となって、フラッシュバックなどの苦痛を伴う症状を引き起こす状態だ。
アキラの状況は、今間違いなくその狭間に置かれていた。
「そうよ、ユウちゃん、だからがんばんなさい!」
そう言って、肩をぽん! と叩かれた。
「いや、頑張れって言われても。その行為自体がトラウマになってるんじゃどうにも……」
「じゃあいっそのこと寝込みを襲うとかってのはどう?」
「いやだから、そういうのはダメですって! これ以上アキラの心の傷をえぐるような真似だけは……」
「まあそうね、後々の関係にヒビが入ったら意味ないわよね」
過去にそういう経験をしそうになったことを、キャシーには口が裂けても言えない。
「とにかく、アキラのことは俺が何とかしますから」
「はいはい、分かったわよお。じゃあ邪魔者は退散するから、ホントがんばってよ? ユウちゃんには期待してるんだからね」
「期待って言われても……はい、まあ頑張りますけど」
気のせいか、何だかけしかけられているような……
そんな嫌な予感がした。




