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27 救出へ

「あら……ちょっと待って」


 キャシーが何かに気が付いたようだった。


「アキラちゃん、もしかしてまだなの?」

「え、何が?」

「胸のアザ、まだ消えてないわよね。もしかして、彼とは上手くいってないの? 友達のままとか?」

「い、いや、一応今は彼女……なんだけど」

「彼、事情は知ってるのよね。それとも相当奥手なのかしら。この状況でまだしてないって……」

「あの、そうじゃなくて――ごめんなさい、オレの方が逃げ回ってて……それでまだ」


 歯切れの悪いアキラの話を聞いて、キャシーは深刻な顔つきになった。


「だったらやっぱり早く逃げないとまずいわね。こんなこと、あいつに知られたりしたら……」



 バン!



 突然乱暴に扉が開いた。

 二人はビクッとして扉の方を向いた。


「なーんだ、そうだったんだあ」


 ニヤニヤとしながらキョウが戸口に立っていた。


「君、まだ処女だったんだ。すーっかり騙されたよ。何そのキスマーク、ただのフェイク?」


 そう言うと、つかつかと二人に近付いて来る。

 そしてアキラの側にしゃがみ込むと、襟元をグイッと乱暴に引っ張った。


「や、やだ、見んな……っ」


 逃げたくとも、身体が言うことを聞かない。


「へーっ、で、このアザ? これってヤったら消えるワケ? 何それ超おもしれーじゃん。それに思ったより元気そうだし。いやー予定変更だわ」


 そう言うと、アキラの腕を掴んで強引に立ち上がらせた。


「あ、う……!」


 痛みで声が漏れる。


「ちょっと! その娘立てないくらいの怪我してるのよ! やめてあげて!」

「うっせーよ、ババア!」

「きゃあッ!」


 言うなりキャシーを蹴り飛ばした。


「キャ、キャシーさん……あ!」


 伸ばそうとした手を、また男に引っ張られる。


「君、人の心配してるヒマないよ? ほら来いよ、たっぷり可愛がってやるからさあ」


 その冷酷な表情に、アキラは背筋が凍り付いた。


(ユウト……ユウト、ごめんね……)


 心の中で謝る。

 自分の軽はずみな行動が招いた悲劇だと。

 逃れる術が……完全に無くなった。



 ◇◆◇



 五人の内の一人が、耳をぴくりとそばだてた。


「キャシーだ、キャシーの声が聞こえた!」


 ユウトも耳をすましてみたが、辺りはしんとして物音一つ聞こえない。


「本当ですか? 俺には何も……」

「こいつは特別耳がいいのだ。俺たち五人はそれぞれ五感の一つが飛び抜けて秀でているのだよ」

「それってすごい特技じゃないですか」


 ユウトは改めて、この五人を見直した。


「それもこの世界が変化してからなのだが……それぞれ元は疾患を持っていた部分が完治して、何故か通常より進化しているのだよ」

「え? そ、それって、まさか俺と同じ……」


 その会話は突然遮られた。


「む? キャシーが俺たちじゃなくて誰かの名前を叫んでいるぞ?『アキラ』――とは誰だ?」

「アキラ!?」


 その名を聞いた途端、ユウトは慌てて食いついた。


「そ、それ、俺の捜してる彼女です! アキラに……あいつに何かあったんですか!?」

「そこまではっきりとは分からんが、『やめてあげて』とかなんとか……とにかくキャシーの声がする方へ行ってみよう」


 どう考えても何かあったとしか思えない。


「他には? アキラの声は聞こえませんか?」

「いや、大声で叫んでいるのはキャシーだけだ。他の声は残念ながら聞き取ることが出来ない」


(肝心なことは何も分からないのか。アキラ……頼むから無事でいてくれよ)


 ユウトは祈る思いで五人と共に駆け出した。




 しばらくすると、キャシーの叫ぶ声が途切れた。


「むう、もう何も聞こえないな。俺の出番はここまでだ」 

「大丈夫だ、キャシーのにおいがしてきた。近いぞ。後は俺に任せろ!」


 さすがは五つ子、ものすごい連携プレーだ。


(本当かよすごいな。俺一人じゃ絶対無理だった)


 期待していなかった分、頼もしい限りだった。

 ある部屋の前まで来ると、また一人が器用に鍵を開けにかかった。


「こいつは触覚が優れていて、どんな物でも触っただけで簡単に言い当てられる。ちなみに鍵穴の感触で、どんな鍵でも開けられるのだ」

「それはまたすばらしい能力だと思いますけど、今はとにかく急いでもらえますか」


 この部屋にアキラはいるのだろうか。

 気ばかりが焦って、何もかもがもどかしい。


「こいつが鍵から一番遠い所にいなければ、牢の鍵も開けられたのに」

「一番最初に飛び込んだのがこいつだったからな」

「何を言う! みんなほぼ同時だっただろう」


 そんな小さな兄弟ゲンカが行われ始めた。

 今はそんなこと本当どうでもいいだろうにと、ユウトはうんざりした。


「その声は、ダーリンたち? そこにいるの?」


 中から女性の声がした。

 さすがにこの兄弟ゲンカは、部屋の中まで聞こえたらしい。


「おおっ、キャシーか! 待ってろよ、今助けてやるからな!」


 カチン、と鍵の開く音がした。

 ゆっくりとドアを開けて、隙間から中を見回す。

 少し薄暗い中に、こちらを警戒して身構えている一人の女性の姿が浮かび上がって見えた。


「キャシー!!」


 五人が揃って声を上げた。


「ああ! ダーリンたち!」

「うおおおお~~!!」


 再会を喜び合うのは結構だが、うるさいことこの上なかった。


「キャシー! すまなかった!」

「大丈夫だったのか!」

「ああ! 怪我をしているではないか!」

「私は大丈夫よ。それより……」

「ちょっとみなさん、もう少し落ち着いて! 声が大きいですって!」


 そう言ったユウトとキャシーの目が合った。


「もしかして、あなたがユウちゃん?」

「ユウちゃんて……いや、そんなことはどうでもいい! キャシーさん、アキラは……」

「アキラちゃん! そうよ、早く助けに行ってあげて! あんなひどい怪我してるのに、あの男に無理矢理連れて行かれたのよ!」

「ひ、ひどい怪我って? あいつに何されて……」

「それにあの娘、処女だってばれちゃて……早く見つけないと、もっと大変なことになるわよ!」


 ユウトの表情が凍り付く。

 よりによってあんな男に――


 勢い良くキャシーの両肩を掴むと、激しく揺さぶって聞いた。


「それで! 何処へ連れて行かれたんですか!?」

「ごめんなさい、私もそこまでは――」

「そんな、何でだよ! くそ……アキラ……ッ!」


 ユウトはいてもたってもいられずに、部屋から飛び出していた。


「あ、ちょっと! そんな一人で……」


 キャシーの声を無視して、とりあえず自分たちが来た方とは反対側へ駆けていく。

 冷静ではいられない。

 そんな状態では頭も働かない。

 今はただ、闇雲に走っているだけだった。



 そんな時、ユウトの懐の中にいたチビが「ウウウ」と低い唸り声をあげた。

 それと同時に、ユウトもピタリと走るのを止めた。


「あら、相当お困りのようね」


 女の声だった。

 ユウトの熱が冷めていく。

 お陰で冷静さを取り戻すことができた。


「おい、お前の兄貴はどこにいる?」


 薄暗い廊下の先に立ちふさがっているその女――レイにそう問いただした。

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E★エブリスタ
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