26 戦闘態勢
ユウトが遭遇した彼らは、教授の話していた五人組に違いなかった。
こんな五つ子、他に捜したってなかなか見つからない。
「樫木教授にお会いになった方々ですよね。あの、どうしてこんなことになっているんでしょうか」
五人が一緒の牢屋に詰められている状態が、ユウトは気になって仕方がなかった。
「おお、君も樫木教授に会ったのか!」
「罠に掛かったのだ、五人いっぺんにな」
「五つ子なんで、きっと思考が似ているんだな」
「非常に情けない話なんだが」
「それにしても狭いな」
みんなそれぞれに話すのだが、誰が誰だか分からない。
区別が付かない程に五人はそっくりだった。
「それより、ここから出して貰いたいのだが」
「いや出すと言っても、俺には鍵の在処が分からないんですが」
「そこだ、君の後ろ」
「え?」
見ると、チビが何やら口にくわえている。
明らかに牢屋の鍵だと分かった。
「ええ? 何処で見つけたんだ? というか何でその辺に落ちてたりすんだよ」
「我々を騙したあの男が適当に放り投げていたからな。しかし我々ではどうにもならなかった。礼を言うぞ、チビくん!」
「あの男って、あいつか……」
アキラを連れ去った、あの女の兄。
早く居場所を掴まなければいけない。
気持ちだけが焦る。
「あの、皆さんも女性を捜してここへ来たんですよね? その方は今何処に?」
「その前にだ、鍵を頼む」
脂汗を滲ませながら言う。
相当窮屈で早く出たかったらしい。
「ああ、そうでした。すみません」
鍵を開けると、ドドドっと五人が弾き出されるように外へ出てきた。
ユウトとチビは、危うくその波に巻き込まれる所だった。
「おお! やっと自由になれた。ありがとう君たち」
「かれこれ六時間程あの状態のままだったのでな」
五人はそれぞれユウトに礼を言った。
そして縮こまった筋肉をほぐそうとストレッチを始めた。
「そんなことよりさっきの質問なんですが、キャサリンさんの居場所は分かっているんですか」
「いいや、これから捜すのだ」
「へ……?」
「ここへ来て早々、罠に掛かってしまったのでな。この牢屋の奥に音声が仕掛けられていた。キャシーの声だったのだ」
「我々は、何も考えずに飛び込んでしまった。いやあ、迂闊だった」
「はは……そう、ですか……」
もしかしたら、この人たちは当てにならないかもしれない……
どうする? 大丈夫だろうか。
「君はどうしてここへ?」
「俺も同じです。しかも、彼女が浚われたのはついさっきで……それを追い掛けたらここに」
「なるほど。では君も我々と来るがいい。AチームとBチーム、どっちがいい?」
「は? いや、どっちでも……」
「分かった。じゃあ君は、特攻野郎のAチームでいこう」
「何かそれ、どこかで聞いたような……」
そしてまた別の一人が思い出したように口を開く。
「おお、そうだ。まだお互いに名乗っていなかったな。さっきも言ったように我々は五つ子だ。俺は長男のジョーイチ。そして右からジョージ、ジョーザ、ジョーシロー、ジョーゴだ。よろしくな少年」
「はあ……」
一度に五人も産まれると、親も名付けに困るんだろうな――
そんな思いでユウトはその自己紹介を聞いていた。
「あ、俺はユウトです。こちらこそよろしく」
こちらも面倒なので名字は省いた。
「よし、自己紹介も済んだ所で、まずは武器弾薬の調達からだ。A、B共に行くぞ」
「イエッサー!」
「え、ちょっと……武器弾薬って、ええ?」
ユウトは言われるがままに付いて行くしかなかった。
「あの! ここの構造、分かってるんですか?」
「いいや。だが火薬の臭いがする。こっちだ」
「え、におい……?」
六人は大きな扉の付いた、ある部屋の前に来た。
さっきの牢屋からは結構離れている。
よく見ると扉には「DANGER」の文字が記されていた。
「本当に? すごいな……もしかして、何処かの部隊に所属していた兵士だったりとか?」
「いや、ただのサバゲーマニアだが、知識に関しては全員自信がある」
「サ、サバゲー……」
ユウトは少し先行きが不安になった。
「あ、でも鍵が――」
ユウトが言おうとするなり、
「「「「「せーの!」」」」」
五人は一斉に扉へ体当たりをした。
どごん!
扉はいとも簡単に破壊された。
「スゲー……でも、何で牢屋は破れなかったんですか」
ユウトは素朴な疑問を投げかけてみた。
「体当たりしようにも、身動きが取れなかったのでな」
「なるほど、納得しました」
疑問は瞬時に解決した。
◇◆◇
部屋の中へ入るなり、ユウトは驚愕の声を上げた。
「何だこれ……戦争でも始める気だったのかよ?」
そう思ってもおかしくはない、おびただしい量の武器弾薬が所狭しと置かれていた。
おそらくは密輸目的だろうが。
「我々が取り上げられた物もここにあるようだな」
五人はわらわらと武器を選び出した。
ユウトはある物に目を止めた。
例のスタンガンも、ここには大量に置かれていた。
(馬鹿みたいに使い捨てにも出来る訳だ)
ユウトは苦々しい顔をした。
そんなユウトの顔に、突然ひやりとした物が当たった。
「うわ! え、何ですか?」
「君も何か持っていた方がいい。これなんかどうかな?『ベレッタM9』アメリカ軍にも正式採用されている。それとも、こちらのリボルバー式の方がいいかな?」
「べ、別に……手にしっくりくれば、どれでもいいです。そもそも、撃つ気も撃てる自信もないんで」
「そうだな、素人はむやみに手を出さない方がいい」
サバゲーマニアは素人じゃないんだ……そう突っ込みたかった。
ユウトも銃の基本的な知識はそれなりに持っていた。
モデルガンやエアガン程度なら、何度かショップで試したことがある。
それもここ最近のことなので、思いの外慣れた手付きで銃を扱って見せた。
「ほう、君もガンマニアかい?」
「いいえ。本当なら、今頃アメリカへ留学していた筈だったんです。あっちは銃社会ですから、ある程度の知識や扱いは身に付けておいた方がいいかと思って。でも、実際はそれどころじゃ無くなりましたけど」
五人はあれこれと目移りして仕方がないらしい。
物珍しさも手伝って、いつまでも決めかねていた。
これだからマニアは――
ユウトはイライラして、一人足早に部屋を出て行こうとした。
「待ちたまえ! 単独行動は危険だぞ」
「じゃあ急いでくださいよ! こうしてる間にも、あいつは……!」
「む……その通りだ、すまん。我々も急ごう」
そう言うと、お互いを急かしてようやく揃って武器庫を後にした。




